猛暑・酷暑日の炎天下、笠松競馬場では砂煙を巻き上げながら、人馬による迫力あるレースが繰り広げられていた

 この夏、笠松競馬場がある岐阜県は全国一暑い。梅雨明け後、7月25日には美濃市で酷暑日の40.8度、多治見市は40.7度で全国ワンツー。岐阜市も39.7度で、隣接する笠松町にある笠松競馬場はやはり全国一暑い過酷な環境にある競馬場といえる。猛暑・酷暑日の炎天下、人馬は砂煙を巻き上げながら懸命にゴールを目指し、熱戦を繰り広げていた。

 笠松・サマーカップシリーズでは、熱中症のため出走を回避した馬が2頭いた。年々厳しさを増す真夏の気象状況だが、ナイターでない笠松競馬は真っ昼間の開催。レースでは、人馬とも猛暑・酷暑と格闘しながらの日々が今後も続くことになる。ジョッキーは夜中の12時から朝8時まで30頭前後の攻め馬を行った後、昼前から夕方にかけて39~40度が観測された時間帯を含め、ぶっ通しのレースが続き、肉体的にも過酷な状況となっている。

レースを終えたばかりのジョッキー。暑さに耐えながら懸命の騎乗を続けている

 ■ジョッキーたちは汗まみれ、砂まみれの者も

 「人馬一体」とはいうが、ジョッキーも馬も黙って耐えるだけ。装鞍所からパドックに向かう競走馬たちは、臨戦態勢の引き締まった表情でいつも通りに見える。一方、レースを終えたばかりのジョッキーたちは汗まみれ、砂まみれの者もいる。緊張感からは解き放たれてはいるが無表情で、いかにも「あ~暑い」といった様子に見え、ぐったり感も漂っている。

 初日、地方競馬通算1100勝達成記念セレモニーで馬渕繁治騎手は「1日でも長くやり続けたいです」と意欲。馬渕騎手の勝負服姿でジョッキー仲間たちが駆け付けたが、午後2時近い最も暑い時間帯でもあり、それぞれ額の汗を拭う姿も見られた。

馬渕繁治騎手の地方競馬通算1100勝達成記念セレモニー。猛暑で額の汗を拭うジョッキーの姿も

 ■40度の酷暑にも耐えながら、体を張ってレースに集中

 コースは炎天下、暑さがピークを迎えるのは6~8Rぐらいだが、40度の酷暑にも耐えながら体を張って、命懸けのレースに集中するジョッキーの姿は本当に頼もしい。「これが仕事だから」とはいえ、深夜から朝まで攻め馬をこなして、少し仮眠を取るなどして体を休めた後、10時ごろには検量もあってレース本番に備える。

 笠松はジョッキー不足で1日9頭に騎乗する者もいる。乗り鞍が多いことは喜ばしいことだが、真夏でも30~35分間隔で実施されるレースに「通常勤務」で頑張っているのだ。もちろん、パドックに誘導する厩務員や運営に携わる関係者の皆さんのご苦労も大変で「おつかれさま」のひと言だけでは片づけられないものがある。ジョッキーは個人事業主でもあり、炎天下での体調管理などは自己責任となるので、みんなサプリメントや水分補給で熱中症回避に努めている。

 猛暑は誘導馬にとってもつらいお仕事。重賞開催日に実施されているマカロンらによるパドックへの誘導業務にも影響。これまでは1Rからだったが、7月20日のサマーカップ開催日には、熱中症対策のため10Rからの登場で、最終12Rまでの誘導となった。そのサマーカップを制覇したのは丸野勝虎騎手が騎乗したマンノライトニング(牡6歳、安部幸夫厩舎)。1番人気に推され、好位から差し切った。丸野騎手は笠松重賞での強さが際立ってきた。

誘導馬のマカロンは終盤10Rから登場。サマーカップを盛り上げた

 ■1日の騎乗数は1人9頭まで、名古屋の若手もレギュラー化

 現在、笠松の所属騎手は14人だが、松本剛志騎手が長期欠場、前開催は高木健騎手も負傷療養中で欠場。藤原幹生騎手は8月28日まで南関東期間限定騎乗のため不在である。このため笠松勢11人に名古屋勢を加えての少数精鋭での戦いになっている。

 笠松の場合、1日の騎乗数は1人9頭まで(名古屋も9頭までに変更)。3日間開催で12Rまで10頭立てが続くとすると、1日延べ120人が必要になる。ベテランは騎乗数が少ないし、地元騎手だけでは足りなくなる。このため、名古屋のトップジョッキーらが笠松でもレギュラーとして活躍。全国リーディング2位、3位の塚本征吾、望月洵輝騎手は騎乗依頼も多く、笠松でもリーディング3位、5位につけている。
 

内馬場パドックでは出走馬の暑熱対策としてミスト噴射が行われている

 ■「人馬の負担軽減のため、パドック入場の時間を遅らせます」

 東海地方の梅雨明けは笠松・サマーカップシリーズ初日(7月20日)だった。レース前には「暑熱対策として人馬の負担軽減のため、パドック入場の時間を遅らせます」と周回時間短縮の場内アナウンス。各馬は装鞍所から約300メートルの道のりで、コースを横切って馬道を進み、ゴール板を通り過ぎてパドックに到着する。全国唯一の「内馬場パドック」で、他場にはない「猛暑に耐えての長距離ウオーク」が続けられている。

 夏場は発走時間の15分前にパドック入りする。周回は約5分間で、各馬はパドックを5周ほどしてジョッキーの到着を待つ。コース南側4カ所で「ミスト噴射」があり、暑さを和らげている。これに対して名古屋のパドックでは、1周丸ごとミスト噴射が大量に行われている。笠松はパドック形態からもミストの数が少なく、効果は限定的のようだ。

 発走の約10分前にはジョッキーたちがマイクロバスで到着。ファンに一礼し、パドック1周目ですぐに返し馬に向かう。入れ込むことなくおとなしい馬はラチ沿いに来て、カメラやスマホを手にしたファンを喜ばせてくれる。

笠松競馬場の装鞍所エリアの日陰に設置されている温度計は「39度」を表示

 ■手元の温度計は「45度」、装鞍所で熱中症の馬も

 梅雨明け後、岐阜県内の観測地点では5日連続で40度以上を観測し「酷暑日」となり、サマーカップシリーズを直撃。発走は10時50分~17時15分。レース真っ最中の午後には、装鞍所エリアの日陰に設置された温度計は39~40度まで上がった。

温度計は「40度」まで上がり、酷暑日となったが、レースは通常通り開催された

 この日は温度計を持参した。直射日光を浴びる手元では「45度」を指しており、砂地などの表面温度は50度超え。炎天下のコースを疾走する人馬の体感温度はより厳しさを増していた。レースを終えた渡辺竜也騎手に、日なたでは「45度ぐらいありますよ」と声を掛けると「いまー?、暑いですものねえ、本当に」との声。レースの合間、騎手控室ではみんな、つかの間の休息、水分などを補給しながら次のレースに備えて体力を回復させていた。

 サマーカップシリーズでは開催4日間とも12Rまであり、7~8頭立てで少頭数のレースが多かった。3日目の1R、出走予定だった1頭が装鞍所での熱中症のため競走除外となった。2Rでは1頭が熱中症のため出走を取り消していた。

前半のレースで2勝を挙げた東川慎騎手。暑さにめげず頑張っているが、顔は汗まみれだった

 ■暑さ、騎手は「大丈夫じゃないです」「笠松は、もろなんでヤバイ」

 4日目1Rは10時50分発走と早い時間帯だったが、勝った東川慎騎手に暑さについて聞くと「大丈夫じゃないです。やっぱ暑いですね」との返答。「でも体調の方は今のところ大丈夫です」とのことだ。この日は前半戦、4番人気と3番人気の馬で2勝を挙げていた。喜びのポーズをお願いすると、その笑顔は汗まみれだった。「攻め馬は8時までの方がありがたいです。きょうは6時台には終わって、(レース前に)ちょっと仮眠が取れました」という。少しだけ休む時間もあって体力を回復させ、好騎乗で勝利につなげた。

 名古屋の望月洵輝騎手は「笠松は今週暑いですね。名古屋はいまナイターでまだましです(レースは14時~20時30分に開催)。でも笠松は(暑さが)もろなんでヤバイです」とのことだ。ほかのジョッキーからも「地方競馬はJRAのようにはできないでしょうが、何とかならないかなあ」といった声も。最高気温となる時間帯でのレースが続き、熱中症に近い症状で体調不良になるリスクも大きいが、ジョッキーはみんな本当によく頑張っている。

 ■ファン「ナイターできない笠松、しょうがない」「開催時間をちょっとずらすとか」

 日本一暑い笠松競馬場について、ファンは「いま中京や名古屋でもレースをやっているが、笠松が一番ヤバイですよ。(この猛暑の中)中京に対して『開催するな』と言っても、笠松のことは誰も言いませんよね。人にも馬にも優しくないのでは」と厳しい声も。それでも「笠松はしょうがないと思いますよ、ナイターもできないし」「前開催の笠松では、熱中症で出走取り消しもあったし、そういった面で荒れていた。開催時間をちょっとずらすとか対策を」といった声もあった。

「猛暑ウオーク」で装鞍所から馬道を通ってパドックへ向かうスティルアイライズ(7)ら各馬

 ■「ミスト噴射、パドックへの馬道にも」

 また「ミスト噴射は増やすべきだし、パドックに向かう途中の馬道でも何個か設置できたらいい」といった意見もあった。猛暑は9月まで続きそうだが、緊急のクールダウン策として、レースの合間の水分補給のほか、首元を冷やすネッククーラーや冷感タオルを活用するなど、各自で対応するしかないのか。

 スポーツ界では、炎天下でのアスリートたちの熱中症への危険が増している。今夏、サッカーワールドカップでは前後半に給水タイム、高校野球岐阜大会ではクーリングタイムや給水タイムが導入されていた。JRAでは中京や新潟では昼休みを挟んでレースを実施。来年からは16時からの7レース制に短縮される。

 地方競馬の場合、暑い夏場にナイター開催がないのは笠松、岩手(盛岡、水沢)、浦和の4場になった。40度超えでも開催され「酷暑日」の直撃を受けた笠松競馬場。レース中などにまさかの「アクシデント」が起きてからでは遅いので、今後はさらなる抜本的な熱中症対策が必要になってくる。(次回に続く)


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