昨年の「ジョッキーズチャンピオンシップ」で金沢入り。にこやかな渡辺竜也騎手と塚本征吾騎手
勝負服のように「VV」と勝利を量産。笠松の渡辺竜也騎手と名古屋の塚本征吾騎手、望月洵輝騎手の20代トリオが華々しい活躍で東海公営は「3トップ」時代に突入した。
ファンの大きな声援を浴びながらスタンド前を真っ先に駆け抜けて強烈ゴール。次々とレジェンド超えを果たし、末恐ろしいアスリート3人による記録ラッシュは、場内やネット上でもファンを驚かせている。笠松の笹野調教師は全国リーディングトップの座を奪い、2位と2勝差で快走。東海地区のホースマンたちのレベルは着実にアップしている。
■渡辺騎手、2人からも刺激受けて名古屋フル参戦
今年は渡辺騎手の名古屋参戦が大幅に増えた。ここ2年はNARグランプリ「全国最高勝率騎手賞」に輝いたが、30%台の勝率をキープするため地元笠松を主戦場にし、名古屋での騎乗をセーブしてきた。今年は全国タイトル2回ゲットの余裕もあってか、笠松参戦の塚本、望月騎手の活躍にも刺激受けて平日は東海公営2場でフル参戦を続けている。当初は「お小遣い稼ぎに」と冗談ぽく話していたが、騎乗馬の質も徐々に上がっており、名古屋でも50勝ラインに到達しリーディング8位に浮上した。
名古屋では426戦と、笠松での368戦を上回る騎乗数(9月3日現在)。1番人気になることは笠松に比べて少ないが、渡辺騎手なのに名古屋では「穴っぽさ」もあってちょっと新鮮。馬券作戦の上でもファンの注目を浴びている。
ウイニングランでスタンドから「ジュンキコール」を浴びて、1着の枠場に入るサンヨウテイオウと望月洵輝騎手
■笠松今年のレース、3人で248勝
かつては世紀をまたいで安藤勝己、川原正一、吉田稔、岡部誠ら名手が東海公営の「レジェンド」といえる存在だった。渡辺、塚本、望月騎手の3トップは彼らの背中と記録を追って、きょうも1着ゴールを積み重ねている。
渡辺騎手は今年10年目。地方通算1370勝を超え「中堅」の域に達したがまだ26歳。6年目の塚本騎手が22歳で、3年目の望月騎手は20歳になったばかり。笠松、名古屋のほかにも土曜、日曜には全国の地方重賞やJRAの舞台で騎乗することも増え、結果を残している。笠松では8月までに711レースが実施されたが、渡辺、塚本、望月騎手の3人で248勝を挙げている。
なおレース数と騎手の勝利数は一致しないこともある。レアケースではあるが、1着同着もあるからだ。それがウマ娘コラボイベントもあった5月1日に発生していた。人気馬スティルアイライズが出走した1Rで1着同着となった。藤原幹生騎手と筒井勇介騎手のベテラン2人が勝利を分け合い、ほほ笑ましいシーンにもなった。
一方、名古屋競馬では「5000勝名手」の岡部誠騎手(49)が昨年8月、一連の不祥事で引退となった。地方競馬通算5271勝、中央でも19勝。名古屋リーディングは通算18回(24年までは6年連続)。「大井の帝王」的場文男騎手の地方競馬通算7424勝超えも狙える存在だったが、現在は滋賀県甲賀市のキャニオンファームで競走馬の育成に従事している。
その後、リーディングが抜けた名古屋のジョッキー勢力地図は激変。30代の今井貴大、加藤聡一ら中堅騎手や大畑雅章、丸野勝虎らベテラン騎手を上回る勢いで塚本、望月騎手ら若手が勝ち星を量産。減量の特典もある2年目の小笠原羚騎手が31勝、ルーキーの近藤颯羽騎手は4月以降で30勝を挙げるなどヤングジョキーの台頭が目立っている。
オグリキャップ記念をケイズレーブで優勝を飾り、「やばい、勝ってもうた」と大興奮の渡辺騎手
■渡辺騎手いつも「笠松愛」に満ちた姿勢
東海3トップの「センター」を務めるのは渡辺竜也騎手(笹野博司厩舎)。4年連続リーディングで「笠松の絶対エース」として重賞は通算27勝。笠松では1日2、3勝なら「通常運転」で6勝、7勝そして今夏は1日8勝にまで自己記録を伸ばした。
Ⅴ量産にもおごらず「いい馬にいっぱい乗せてもらってますからね。取りこぼしているレースもありますから」といつも平常心でレースを淡々とこなす好青年。2017年の笠松デビュー時からずっとその勇姿を見てきたが、23年に183勝を挙げて川原正一騎手の笠松年間最多勝記録を更新。24年は232勝とさらにブレーク。その手腕が認められ、全国の調教師からも騎乗依頼が相次ぐ人気ジョッキーとなった。
昨年からは吉原寛人騎手に続く「さすらいの重賞ハンター」として各地を転戦。その成長度は目覚ましいものがある。他場での重賞勝ちインタビューでも「笠松にぜひ足を運んでください」といつもファンに呼び掛け。「笠松愛」に満ちた姿勢はずっと変わらない。
笠松では5年前、馬券の不正購入などでリーディング経験者らがごっそり抜け、2位で騎乗技術も確かな渡辺騎手に人気馬への騎乗依頼が集中。馬主さんや厩舎サイドの信頼も厚く、白星を積み重ねる「敏腕ジョッキー」として奮闘している。
重賞などビッグレースで断トツ人気なら、地方競馬でも本命絡みの馬券が全体で1億円以上売れていることもある。人気を背負い「負けられない」思いが強いジョッキーは、相当なプレッシャーがあるのでは。
騎乗馬を信じて能力を最大限に引き出し、体を張ってプラス思考で勝利をイメージしないと務まらないジョッキーの仕事は本当に過酷でプロフェッショナル。その勇敢な姿にはラチ沿いへと足を運ぶファンも勇気づけられている。
JRAの中京記念にも参戦したケイズレーブとパドックを周回する渡辺騎手
■「1日9戦8勝」は武豊、ルメール騎手超えの快挙
渡辺騎手は今夏、笠松で「1日8勝」のJRAを含めた日本タイ記録を達成した。これまでに1日8勝をマークした武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手、岡部誠元騎手はいずれも「10〜12鞍」での達成だったが、渡辺騎手は「9戦で8勝」と国内最少騎乗回数で日本レコードの快挙にもなった。
全国区の重賞ハンターとしてここ1年はオグリキャップ記念をケイズレーヴで制したほか、岩手(盛岡)や佐賀、門別など全国各地に遠征して重賞タイトルを獲得。今夏にはJRA重賞(小倉記念)にも初挑戦。宮崎ステークスではグランキングオーに騎乗しJRA2勝目を飾った。
NARグランプリ受賞はデビュー2年目に「優秀新人騎手賞」、2023年に「ベストフェアプレイ賞」、24、25年の「最優秀勝率騎手賞」で4度目の晴れ舞台となった。
2024年5月、パドックから返し馬に向かうハルオーブと塚本騎手
■塚本騎手、全国リーディング2位
塚本征吾騎手(桜井今朝利厩舎)は昨年、全国で250勝を挙げ、初めての名古屋競馬リーディング表彰を受けた。地方競馬通算500勝達成は初騎乗日から1367日(4923戦目)、通算900勝達成はデビューから5年3カ月(7493戦目)で達成。NARグランプリ2022で優秀新人騎手賞を受賞した。YJSファイナル進出などでのJRA騎乗経験はまだない。
笠松での騎乗数は442戦で渡辺騎手よりも多い。2年前には人気馬ハルオーブに騎乗し初戦3着。最近ではギフノオウマサンとのコンビで準重賞「秋風ジュニア」を制覇した。
重賞タイトルは通算11勝。エイシンジョルト(笹野厩舎)とのコンビではブルーリボンマイルなど重賞3勝。ヒストリーメイカーでは東海ゴールドカップを勝っており、笠松ではここ1年で重賞4勝と気を吐いている。
2025年2月、塚本騎手騎乗の9番人気エイシンジョルトがブルーリボンマイルで全国重賞Ⅴ
今年は名古屋だけの騎手リーディングも143勝でトップ。全国リーディングでは220勝で、笹川翼騎手(大井)の234勝に続き2位。残り4カ月、逆転トップも狙える位置につけている。地方通算955勝で早ければ来月にも「史上最速で1000勝達成」のニュースが流れることだろう。
優秀新人騎手賞の表彰式では「名古屋と笠松で多く乗せていただいていて、勝率も高めていきたい。重賞を勝ちたいし、きれいにスマートに乗りたい」と語っていたが、その夢を着々と実現。全国リーディングも射程圏に入れたトップジョッキーに成長した。
2024年12月、中京でのヤングジョキーズシリーズでJRA初勝利を飾り、笑顔がはじけた望月騎手
■望月騎手、最速記録どんどん更新か
望月洵輝騎手(井上哲厩舎)は、塚本騎手以上の驚異的なペースで勝ち星を積み重ねている。地方競馬通算500勝達成は今年7月31日の名古屋5R(ゴールドレターに騎乗)だった。2024年4月9日の初騎乗からわずか844日(3229戦目)で到達。塚本征吾騎手の「1367日」を500日以上も縮める新記録。今後も最速記録どんどん更新していきそうだ。
重賞タイトルは25年の東海優駿(サンヨウテイオウ)など既に10勝。JRAのレースでは中京でのYJSファイナルで圧巻の騎乗。単勝99倍で初騎乗初Ⅴの快挙を達成し、YJS総合2位で表彰台に上がった。
昨年12月、ミモザノキセツでライデンリーダー記念を制覇。ガッツポーズで喜びを爆発させた望月騎手
昨年は年間235勝。ミモザノキセツとのコンビではライデンリーダー記念など重賞3勝。地元では181勝を飾り、名古屋競馬単独ではトップの勝利数。渡辺騎手も「名古屋の超新星」と注目していたが、NARグランプリ2025で最優秀新人騎手賞を受賞。目標として「夢は大きく、全国リーディングを取りたいです」。騎乗の強みは「身長も高いので、長い手足を生かしたダイナミックな乗り方を意識。騎乗スタイルなど全てに磨きをかけていきたい」と意欲を示していた。今年は他地区への遠征も増え、日本海スプリント(金沢)、オパールカップ(盛岡)を現地馬で制覇した。
望月騎手は北海道で期間限定騎乗中(9月10日まで)。20歳の誕生日に門別で3連勝。2日に2勝、3日にも3勝を飾り計8勝。道営でも「乗れるジョッキー」として存在感をファンに示している。
笠松競馬を代表する名門厩舎の師弟コンビ。今年は全国リーディングを狙う笹野博司調教師(左)と主戦の渡辺騎手
■笹野調教師、高知の打越調教師を上回る129勝
渡辺騎手の師匠である笹野博司調教師は10年連続の笠松リーディングを獲得。地方通算では1834勝。東海ダービーはビップレイジング=藤原幹生騎手=で制覇している。
8月末までの開催で129勝を挙げ、全国リーディングのトップに立った笹野調教師。高知の打越勇児調教師に続く2位が3回もあり、あと一歩だった「全国1位」の座をゲットする大きなチャンスが巡ってきた。
打越調教師が127勝で続き、3位の角田輝也調教師は105勝で、上位2人による全国タイトル争いが濃厚。年内の開催は笠松が残り32戦で高知は残り35戦。2024年に自身が記録した笠松最多勝の190勝超えも十分可能。全国リーディングを獲得し、悲願でもあるNARグランプリ「最優秀勝利回数調教師賞」の晴れ舞台に立って笠松競馬をよりアピールしていただきたい。
笹野厩舎では高知の阿部基嗣騎手(21)が笠松で期間限定騎乗中(11月20日まで)。前開催ではブッチギレで逃げ切って笠松初勝利を飾るなど、自厩舎の馬で2日連続Ⅴをゲット。笹野厩舎では管理する馬も多く、阿部騎手は朝の調教タイムでも頼りなる存在になっている。
昨年のヤングジョキーズシリーズ笠松ラウンドに参戦した明星晴大騎手(左)と松本一心騎手も成長著しい
■明星晴大、松本一心騎手も着実に成長
若手騎手で3トップに続くのが笠松では明星晴大騎手(19)、松本一心騎手(21)で一歩ずつ着実に成長。明星騎手は笠松でリーディング5位の53勝で、重賞は昨年の新緑賞をゴーゴーバースデイで制覇した。松本一心騎手はリーディング6位の44勝。6月以降は1日1勝ペースで白星を積み重ねており、先行して逃げ切るレースも増えている。
明星騎手の父で愛媛の競輪選手だった明星晴道さん(49)は残念ながら7月に引退となった。体力勝負の厳しい世界だが、同じ公営競技の道を選んだ晴大騎手のさらなる活躍をファンらも期待。10代ジョッキーの成長する姿を温かく見守っている。
■不祥事から「再生の道」を誓って丸5年
笠松競馬は2021年、騎手らの馬券不正購入など一連の不祥事で8カ月もレースが休止になったが、「再生の道」を誓って今月で丸5年が経過した。
「レースで馬に乗ってなんぼ」。落馬事故などのリスクとも闘いながら勝負に挑むジョッキーという道を選んだホースマンたち。笠松では賞金のほか騎乗手当が1頭につき8000円、名古屋は1万200円が支給される。このほか笠松では調整ルーム手当として開催日1日につき6000円が支給されている。
21世紀に入って、東海公営にとって第1四半期(2001~25年)は激動の時代だった。存廃に揺れて生き残った笠松、名古屋の2場。ネット投票の恩恵もあって馬券販売はⅤ字回復。第2四半世紀(26年~)はよりいっそうの経営安定化が図られ、厳しかった現場ホースマンたちの生活も徐々に改善されていくことだろう。
2019年10月、園田の姫山菊花賞を制覇したストーミーワンダーを囲んで満面の笑みで優勝を祝う笹野調教師と渡辺騎手
■東海公営の未来は若手ジョッキーたちの台頭で明るい
渡辺騎手&笹野調教師の師弟コンビにとって、ベストレースは2019年にストーミーワンダーで制覇した園田での姫山菊花賞だろう。2人はがっちり握手。名馬と挑んで最高のパフォーマンスを引き出した渡辺騎手の手腕がより輝いたナイターでの一戦。あんなレースを地元・笠松でもまた見たいものだ。
競馬場内のご当地グルメはおいしいし、競走馬との距離が非常に近いことが他場では味わえない笠松競馬場の魅力。紙馬券を握りしめてラチ沿いで迫力ある蹄の音や息遣いを聞きながら、声援を送ってみてはいかが。新時代を迎えた東海公営の未来は若手ジョッキーたちの台頭で明るい。
☆ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」への感想や要望などをお寄せください。 騎手や競走馬への応援の声などもお願いします。コラムで紹介していきます。
(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里5青春編」も好評発売中

「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」「4挑戦編」に続く第5弾「青春編」では、笠松競馬場などでの「砂上の格闘技」で完全燃焼した人馬たちへの惜別の思いも込めた。巻頭はシンデレラグレイ賞&トークショーでのウマ娘ファンの熱狂ぶり、続いて日本競馬界最大のヒーローであるオグリキャップ、アオラキ&ハルオーブ、ストーミーワンダー、ハマちゃんなどを特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、182ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、笠松町歴史未来館、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品。









