初挑戦となった左回りの中京記念、ラスト3F33秒台の切れ味で追い込んだケイズレーブ

 オグリキャップ記念優勝馬としての意地は「見せられたんじゃないですかね。ハイッ、まだまだ頑張ります。もうちょっと、やれるんですけどねえ」。JRA重賞への挑戦を終えて、笠松の渡辺竜也騎手(26)は確かな手応えと悔しさもにじませた。
                                                                     
 地方馬の中央挑戦は胸がときめく。オグリキャップ記念を制覇しても各予想紙はオール無印。単勝339倍、16番人気で重賞「中京記念」(芝1600メートル、GⅢ)に挑んだ名古屋のケイズレーヴ(牡4歳、榎屋充厩舎)。初の左回りに戸惑い、向正面で右の方に行こうとしたそうだが、最後方から上位馬に食らい付いて激走。ラスト3F33秒台の切れ味で猛然と追い込んだ。

 ■コースレコードの勝ち馬から0秒9差、12着でも重賞で十分に戦えることを証明

 ゴールでは12着に終わったが大健闘。コースレコードの勝ち馬からは「0秒9差」とJRA重賞でも十分に戦えることを証明。まだ4歳のケイズレーブ。中京記念の走りは騎手や調教師、応援するファンにとってもJRAでの今後の戦いに「希望の光」を放ってくれた。

 「地方重賞ハンター」として全国を駆け回る渡辺騎手。悲願のオグリキャップ記念制覇を果たしてくれたケイズレーヴとは最高のコンビ。7月の小倉記念12着に続いて2度目の重賞で注目の一戦となった。

 ■東海公営生え抜き馬「中央へ殴り込み」芝で素質開花

 オグリキャップ記念を勝った後「気の強いタイプで、仕掛けるとムキになる面もあるが、レース内容にはびっくりしている。使える脚が長くなってきたし、かけがえのない存在。夏に強い方ではないが、いま4歳で最盛期でもあり、さらに上を目指していきたい」と語っていた榎屋調教師。選択肢としてダートグレード競走も候補にあったが、矛先を「中央への殴り込み」に向けて、東海公営生え抜き馬として芝で素質を開花させつつある。

中京記念、パドックを周回するオグリキャップ記念優勝馬のケイズレーブと渡辺竜也騎手

 前走後も仕上がりは順調。飛山濃水杯3着で手綱を取り、豪快に追い込んだ木之前葵騎手が調教に乗り、馬なりで軽快なフットワーク。猛暑によるパフォーマンスの影響はなく、プラス6キロの424キロで出走した。

 小倉記念に続く芝コースで、初めての左回り。中京といえば、かつて東海公営が行われていたことがあり、オグリキャップは笠松時代に中京盃を圧勝。中央入り後も高松宮杯で重賞5連勝を飾っている。そのレジェンドがレース名になったオグリキャップ記念を制したケイズレーヴが、中京記念に挑むのはロマンにあふれ「最低人気でどこまでやれるか」と胸が高鳴った。

 パドック周回では渡辺騎手が騎乗してからもケイズレーヴは厩務員さんに甘えるようなしぐさで幼さも見せていたが、落ち着いている様子で気相乗り上々。地下馬道を上がって芝コースに出ると、反応良くスタンド前を駆け抜けていった。

芝コースの返し馬で軽快な動きを見せるケイズレーブ

 ■渡辺騎手、最後方から前へ前へ突っ込んだ

 サマーマイルシリーズ第3戦の中京記念。ケイズレーヴは好スタートを切ると、後方待機策から脚をためて、最後の直線412.5メートルで末脚の爆発力に懸ける作戦。4コーナーを回って残り400メートルでも最後方にいたが、渡辺騎手は進路を探りながら馬群を縫うように前へ前へ突っ込んだ。ラスト3Fは33秒5で勝ち馬ラヴァンダ=岩田望来騎手=より速くメンバー5位の好タイム。

 差し脚を伸ばしてジリジリと追い上げてはいたが、ゴールでは5馬身余り届かなかった。小倉記念に続いて12着だったが、今後も挑戦を続けていけば「何か大きいことをやってくれるかも」という期待感を地方競馬ファンにも抱かせる走りを見せてくれた。

 ケイズレーヴの2歳時には木之前騎手が主戦を務めていた。3歳になって差しに徹して笠松でネクストスター中日本、ぎふ清流カップを制覇し重賞6勝。このうち金沢の吉原寛人騎手が4勝。オグリキャップ記念では渡辺騎手が騎乗し、大外一気の豪脚で御神本、笹川、吉原騎手騎乗の上位人気馬をねじ伏せ、地方競馬を代表する1頭に成長した。

最後の直線の坂越え、後方から前を追うケイズレーブ(左から3頭目)

 ■初の左回り、馬もびっくり「向正面では右の方に行こうとしていた」

 検量室前では激戦を終えた渡辺騎手、榎屋充調教師らが愛馬の頑張りをたたえた。渡辺騎手は「2000メートルよりは1600でいいと思いますけど。もっと出していった方が良かったのかも」。レコード決着の割にはレースが落ち着きすぎた。最後は前が止まって中団にいたラヴァンダが差し切り、後方からミニトランザット=松山弘平騎手=が2着に入った。

 芝コースは小倉記念に続いて2回目、左回りには初めて挑んだケイズレーヴ。「前回より明らかに芝に慣れてきましたね。左回りも大丈夫ですよ」とのことだが、これまで右回りしか経験がなく「向正面ではやっぱり右の方に行こうとしてましたけどね。面白いことに(左回りなのに)内ラチが右にあるかと思ったのか、左にはなかなか寄っていこうとしなかったですね。馬もびっくりしていて」と爆笑モード。左回りが初めてのケイズレーブは「アレッ、いつもと違うんだ」と戸惑っていたようだが、それでも最後の直線の切れ味は芝への適性を感じさせる力強い走りだった。

中京記念のゴール前。ラヴァンダ(3)が勝ち、ケイズレーブ(13)はよく追い上げたが12着

 ■渡辺騎手「もうちょいやれる」榎屋調教師「できる気がする」

 「この馬、もうちょいやれるですけどねえ」と潜在能力を引き出したい思いを繰り返した渡辺騎手。これ対して榎屋調教師も「(もっと前に)来ることができる気がするよね。最後の脚の運びを見ると。右回りはコーナリングが良くないが、動きからも左回りの方が乗りやすいかも」。秋に向けて距離適性では「1600メートルなら、中山しかないのかな」。重賞ならサマーマイルシリーズ第4戦の京成杯オータムハンデキャップ(9月5日・中山、GⅢ)がある。

 中山競馬場といえば、船橋市出身の渡辺騎手の地元でもあるが「あそこは厳しいですよ。でも小回りが向いているかも」とも。2017、18年のヤングジョキーズシリーズのファイナルで中山で騎乗。芝コース2戦で3着、2着と好走を経験している。コース取り、馬群のさばき方がうまい渡辺騎手にとって中山コースは騎乗力を発揮できる場。ゴール前に急坂があり、小回りで直線は310メートルと短く、コーナーがきついため直線一気の追い込みは届きにくいコース。右回りだが、有馬記念でオグリキャップが2度勝った夢舞台。立ち回りのセンスに優れた渡辺騎手向きのコースでは。

闘志を秘め、ケイズレーブとパドックを周回する渡辺騎手

 ■「あれだけの上がりを使ってくれた」「また来たい、夢は大きく」

 笠松の名手は「このメンバーでキツイということもなく、あれだけの上がりを使ってくれる馬はなかなかいない。最後は切れましたねえ。芝への慣れはありますし、初めての左回りで、坂越えも初めてでしたが、そのなかでも頑張っていい脚を使ってくれた。また来たいです」と末脚の爆発力に手応え十分。榎屋調教師も「また来たい。頑張ろう」と応えれば、渡辺騎手も「夢は大きく」と意欲を見せた。

 このレース、田口貫太騎手も騎乗していたが、3番人気ナムラコスモス(牝3歳)は好位から伸びを欠いて15着に終わった。人気馬が凡走することがあれば、単勝万馬券の馬が勝つこともあるから「競馬って面白い」となるのである。中京記念での単勝は281万3039票。このうちケイズレーブに投じられたのは6637票だった。

オグリキャップ記念制覇を喜び合う渡辺竜也騎手と榎屋充調教師。後方は優勝馬ケイズレーヴ

 ■「東海公営の星」芝に慣れて展開次第では重賞Ⅴに手が届くかも

 2014年、フェブラリーSを勝ったコパノリッキーは単勝16番人気、272.1倍だった。その馬がGⅠとJpnⅠを計11勝もするとは誰も思わなかっただろうし、どんな馬も何か武器を持ち、秘めた能力を発揮すれば、きっかけ一つで「大化け」する可能性を秘めている。ケイズレーブは芝を2回走って、人気馬と互角以上の末脚を発揮したことからも、芝に慣れて展開次第では重賞Ⅴに手が届くかも。

 名古屋、笠松という東海公営の強力タッグで実現したJRA重賞挑戦。まだ「夢の途中」であり、その豪脚はオグリキャップ記念のように突き抜ける可能性を秘めている。ダートでは、今年は金沢で開催されるJBCスプリント(11月3日)も陣営としては参戦したい一戦である。いずれにせよ、名古屋・笠松という東海の枠、そして地方・中央の壁を超えて、夢を共有しながら走り続けてくれることが地元ファンの願いでもある。「東海公営の星」として末永く活躍を見守っていきたい逸材である。

オグリキャップ記念優勝のケイズレーヴと喜びに浸る関係者

 地方・中央交流元年の1995年、笠松のライデンリーダーが報知杯4歳牝馬特別(GⅡ)を勝ち、GⅠの桜花賞で4着で切り開いた地方在籍馬挑戦の道。中央に移籍せずに地方在籍のままGⅠに挑むことに価値があり、ファンの声援も大きい。今後も名古屋在籍のままJRA挑戦を続けていきたい。

 ■ファン「33秒台の上がり、大健闘」「地方馬とは思えない走り立派」

 中京記念後のケイズレーブへのファンの声。
「このタイムのレースに食らい付けてる。33秒台の上がりなら、大健闘だね」
「ちゃんと伸びてるのすごい! 地方生え抜きでレコード出る馬場で離されず人気以上の結果で応えるのさすが」
「小倉記念、中京記念とよく頑張ったよ。地方馬とは思えない走りは立派に示してくれたよ」

 渡辺騎手はこの日、エキストラ騎乗を含め6戦4着1回、5着2回。全て人気以上の着順で手腕を発揮した。このうち福永祐一厩舎の2頭、寺島良厩舎の1頭にも騎乗。福永調教師からは「渡辺騎手、うまいね」との評価もあって騎乗依頼を受け、2レースとも掲示板を確保した。

中京10Rの1周目、田口貫太騎手&ヴァイヴァーイ(10)とその前に渡辺騎手&バシリス

 ■10Rでは田口貫太騎手が吉田勝利オーナーの馬で制覇

 10R(1勝クラス、ダート)は岐阜県関係者による郷土色豊かな一戦になった。田口貫太騎手(岐阜県岐南町出身)が9番人気ヴァイヴァーイ(牝3歳、小崎憲厩舎)で差し切り勝ち。馬主は吉田勝利さん(岐阜県馬主会副会長)で、田口騎手の騎乗では待望のJRA初勝利を飾った。渡辺騎手は11番人気バシリス(牝4歳、寺島良厩舎)に騎乗し11着。寺島良調教師は岐阜県北方町出身。管理するジュウリョクピエロで今年のオークスを制覇した。

 注目したレース、1周目のゴール前では渡辺騎手、田口騎手が2、3番手につけて「夢のワンツーあるか」の期待も膨らんだ。最後は田口騎手が差し切り勝ち、渡辺騎手は11着だった。

地下馬道からウイナーズサークルに向かう田口騎手と同じレースで戦った渡辺騎手

 ■ウイナーズサークルでスマイル全開、渡辺騎手も参加

 夏季期間中の暑熱対策で優勝馬の記念撮影(口取り式)は、中京記念を勝ったラヴァンダをはじめほとんどの馬が、ウイナーズサークルではなく地下馬道エリアの検量室前で行っていた。

 ところが、ヴァイヴァーイはウイナーズサークルに吉田オーナー、田口騎手ら喜びの関係者が登場。うれしいことに渡辺騎手も貫太騎手のロゴ入りトートバッグを手にして、一緒に地下馬道からウイナーズサークル入り。勝利騎手、オーナーらスマイル全開。サプライズの口取り撮影に集まった多くのファンを喜ばせ、暑さも一掃する爽やかなワンシーンとなって盛り上がった。

中京10Rを勝ったヴァイヴァーイの口取り撮影で喜びの関係者

 吉田オーナーは「貫太とJRAの競馬場で初の口取り。ここまで長いようで早かったなあと。小学生の頃から知ってる子が、大人になり騎手になる。これがやりたかったんだよね。その横に竜也もいて感慨深いものがあります 一つ夢がかないました。小崎調教師はじめ厩舎スタッフの皆さまありがとうございました」と自身のX(旧ツイッター)に喜びの声を寄せ、多くのファンが祝福した。

田口騎手は吉田勝利オーナーの所有馬でJRA初勝利。ロゴ入り特製トートバッグを手に渡辺騎手も祝福した

 田口騎手は2023年3月、地方・中央を通じての初勝利を笠松で飾って、渡辺騎手がプラカードを持った。そして渡辺騎手が24年11月、京都でJRA初勝利を挙げたセレモニーでは貫太騎手も駆けつけてプラカードを持った。今回の勝利は吉田オーナーにとって「悲願の1勝」でもあり、ウイナーズサークルに直行。「笠松つながりの最高のコンビ」として、今回は渡辺騎手の友情出演となった。

 完勝した貫太騎手は「スタート、リズムとも良く、速めの仕掛けでも最後まで伸びて馬が強かった」と喜びの声。年末の大みそかには笠松競馬場での3年連続となるトークショー出演もファンの拍手で既に決まっており「岐阜県の宝」としてスポットライトを浴び続ける。

 ■オークス制覇の寺島良調教師「皆さん、渡辺騎手をすごく評価。『乗れるなあ』という印象」

 今村聖奈騎手騎乗のジュウリョクピエロで「オークストレーナー」になった寺島良調教師。中京10Rで騎乗を依頼した渡辺騎手について「(JRA関係者も)皆さん、すごく評価していると思います。地方馬が中央のレースに来た時(エキストラ騎乗で)乗れるからこの春に何回か騎乗してもらい、その時も『乗れるなあ』という印象でした」と騎乗力をたたえた。

優勝したケイズレーヴから下りて榎屋調教師と握手を交わす渡辺騎手

 ■笠松でⅤ量産の渡辺騎手をライブで見て「なんや、こいつは。すごいなあ」と

 渡辺騎手が中央馬に乗る機会は少ないが、寺島厩舎所属馬ではこれまで5戦。最高着順は今年5月、レディトゥフライトで2着があった。寺島調教師は「厩舎では『毎年30勝したら旅行しましょう』という目標でやっていて、厩舎旅行のついでに笠松競馬場へ遊びに行きました。その時、7レースぐらいやったうち渡辺騎手がほぼ全部勝ってしまい『なんや、こいつは。すごいなあ』と思って」と笠松で勝利を量産する姿をライブで見て衝撃を受けたそうだ。

 寺島調教師は今回も「『すごい乗れるなあ』と思って騎乗を頼んでみた。うまいです、本当に。中央に来ても絶対に勝負になると思います」とありがたい言葉を頂いた。メジャーリーグのスカウトらは日本のプロ野球選手の試合を見に来ることがある。競馬場では来る目的は違っても、中央の調教師が地方のジョッキーのレースぶりを観戦することもある。「笠松にすごい騎手がいる」と関係者の話題になり、中央のレースでの騎乗が増えることにつながることもある。渡辺騎手は今年5月に京都で11鞍に騎乗。JRA公式でも「手綱さばきにぜひご注目ください」と紹介された。

 ■オグリキャップ記念優勝馬、榎屋調教師&渡辺騎手の野望はメラメラと

 中京記念の日、福永厩舎の馬では5着(7番人気)、4着(8番人気)。いずれも掲示板内で人気以上の好走を見せた。渡辺騎手は23日も中京で未勝利、1勝クラスなど計7頭に騎乗予定。6R・有松特別には笠松・笹野博司厩舎のムーンウォーリアで挑む。

 ケイズレーブ&渡辺騎手は今後もJRAの芝コースを主戦場にチャレンジを続けることだろう。ダートグレードなら「挑戦してみたい」(榎屋調教師)というJBCスプリント(JpnI)への道もある。オグリキャップ記念優勝馬との榎屋調教師、渡辺騎手の野望はメラメラと燃え続け、一瞬の切れ味でゴール前をさらに沸かせてくれそうだ。


 ☆ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」への感想や要望などをお寄せください。  騎手や競走馬への応援の声などもお願いします。コラムで紹介していきます。
 (筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
 
 ☆最新刊「オグリの里5青春編」も好評発売中

 「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」「4挑戦編」に続く第5弾「青春編」では、笠松競馬場などでの「砂上の格闘技」で完全燃焼した人馬たちへの惜別の思いも込めた。巻頭はシンデレラグレイ賞&トークショーでのウマ娘ファンの熱狂ぶり、続いて日本競馬界最大のヒーローであるオグリキャップ、アオラキ&ハルオーブ、ストーミーワンダー、ハマちゃんなどを特集。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、182ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、笠松町歴史未来館、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品。