この日が来るまでに26年かかった。ここでも何度も書かせていただいた推し、石坂浩二さんとのトークイベントが実現したのだ。

撮影・三品鐘

 この春、ヒップホップのラップ奮闘を描いたエッセー集「天才歌人、ラップ沼で溺れ死ぬ」が小学館から刊行された。そのトークイベントには、歌人の小島なおさん、詩人の向坂くじらさんという豪華な対談相手をお願いしたが、小学館さんのお計らいで、推しである石坂浩二さんとのトークイベントまで実現することになった。「でもこれ、単純にファンだからだけどいいんですか?」というガチ恋(推しに恋する気持ちを持つこと)心に、時にブレーキをかけながらも実現させてくれた、編集担当者さんに感謝したい。

 石坂さんとのトークでは、ラップの話はもちろん、戦争時の話や、学生時代のエピソードや、劇団四季での演出の話、またそこに通底するプラモデルの話、さらにはギリシア悲劇の話まで実に様々(さまざま)。85歳を過ぎてなお健やかな石坂さんが、戦争時食べるものがなかったことや、絵やプラモデルの塗料も貴重だったこと、安保闘争の話まで思いを寄せると、本当に日本の歴史と芸能史とともに生きた方なのだなあと尊敬の念を新たにした。

 そしてトークショーが終わり、完全に熱に当てられたふわふわな頭でまた編集担当者さん達(たち)とご飯を食べて至ったのは「石坂浩二さんが好き」から進化した「石坂浩二さんのように生きたい」だった。

 どこの馬の骨かわからない私の本にも興味を持ってくれる、寛容さや好奇心、本から広がる知識欲や、自由自在に関連付けて文化を見つめる柔らかい頭、それでありながら終わったら馴(な)れ合わず挨拶(あいさつ)をして颯爽(さっそう)と帰っていく、人との境界線の引き方。こんなふうに歳(とし)を重ねたいと思う立ち振る舞い。そんなわけで私の石坂浩二愛は「石坂浩二さんとお近づきになりたい」というガチ恋から「石坂浩二さんのようになりたい」に切り替わった。実際話してみないとわからないことは本当に多いと思う。同じ時代でそれを感じられる僥倖(ぎょうこう)を思いながら、その日完全にイカれたふわふわ頭で事故らずに帰ったことは本当に奇跡だと思う。(岐阜市出身)


 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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