東北旅行に出かけた。東北には会いたい友人がいて、観光メインというより友人と会ってそのご当地のものを食べる旅だ。仙台では友人に歌会を開いてもらい、歌の話に近況にと話したことは盛りだくさん。そのあとの盛岡では、どうしても会いたい人がいた。作家であり歌人のくどうれいんさんと、私が笹井宏之賞という新人賞の選考委員をしていた時、個人賞の野口あや子賞を贈った八重樫拓也さんだ。八重樫さんの受賞作「墓を蹴る」は衝撃的な作品で、短歌における行儀の良くなさとエレジーが重なり合いとても魅力的だった。

 くどうさんは新刊エッセー「桃を煮るひと」が大好評。その食のエッセーから、きっとくどうさんなら美味(おい)しいものに詳しいと思い、雲丹(うに)が食べたいです! とメッセージを送ったところ、不漁の年にも関わらずとっても美味しい雲丹が用意されたお店を予約していただいた。ご厚意で雲丹を一皿まるまる独り占めして、くどうさん、八重樫さん、地元の記者さんとともに新鮮な海鮮と日本酒に舌鼓を打ちながら、いつになくベラベラ喋(しゃべ)る。翌日はお忙しいくどうさんが旅程を組んでくださり、地元のパン屋さんから石川啄木記念館に歌碑、そして締めはくどうさんの短歌でますます有名になった盛岡冷麺。お行儀よくと頑張ったけれどその味は、1人だったらおかわりしていたし冷たい汁も底まで飲み干していたと思う。

 美味しそうに食べる私たちを見て、くどうさんは始終にこにこしていた。

撮影・三品鐘

 地元の気鋭の歌人も含めてお茶まで満喫し、八重樫さんが駅まで送りますという。旅の直前まで断酒していたけれど、東北の旅ですっかりお酒に緩くなってしまい、それなら河原でお酒飲みませんかと河原でビールと酎ハイを飲んだ。これという、どうしても言いたいことがあるわけでもなかった。けれど私が選考委員になった時、初めての選考で八重樫さんの原稿がきらきら輝いていて、選考委員を降りた今、八重樫さんはもっとその歌と人物に触れたい相手だった。10代の頃の話、連作にもなった父親の話、を、ぽつぽつとしながら河原を見た。初めて行った東北で、歌がなければ出会えなかった相手と、河原で酒を飲んでいる不思議を思った。なんでこうしてるんだっけ。風もお酒も心地よい。なんでこうしているんだっけ。歌が全て運んでくれたこと。

 八重樫さんと別れ、新幹線を待つ空き時間で、カフェでまた雲丹を探して雲丹パスタを食べた。イマイチだった。盛岡、とっておきの雲丹にもくどうさんにも八重樫さんにも会えた。歌が全て運んでくれたんだと思いながら、1人でイマイチな最後のひと束を食べ終えた。

(岐阜市出身)


 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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