その日、私は家で友達を待っていた。スマホの音声アプリ「グラビティ」に登録し、ネット友達を作って3、4年が経(た)つ。名前も匿名なら肩書きも匿名、親しくなると徐々に自己開示することも多いこのネットの関係で、いわゆるオフ会(オフライン、つまり実際に会うこと)も数回した。
出会いがネットであることの危険性や、逆にネットだから話せることの信頼感が表裏一体となったこの関係性が私には合っていて、今日ネット友達2人が東京から、神奈川から、お泊まりに来る。友達のYちゃんは25歳の東京で激務の業界に勤めているフリーランス、Sちゃんは29歳であちこち職を転々としながら今は神奈川で派遣社員をしている。年齢はバラバラだが、それぞれ仕事が好き、そして人が好き、ちょっと寂しがりで好奇心旺盛なのが共通していた。
今回は名古屋観光ではなく、私の趣味の和洋折衷着物を2人に貸して着物おめかしをして名古屋の大須観音に出かけたり、その翌日はドレスアップをしてフレンチのランチに出かけたりと、着倒れ、食い倒れ旅。
そんな名古屋を案内しつつ、私は企(たくら)んでいたことがあった。2人に若い時の洋服をプレゼントすることだ。20代最後の頃、私はお洋服に結構お金を使っていた。青春期におしゃれができなかった反動か、爪に火を灯(とも)してどんどん買った洋服ももはやサイズアウト。もし痩せても40歳近い体には若すぎるデザインを、妹のような彼女らに譲りたかったのだ。Yちゃんは着道楽、私が渡したコムデギャルソンやヴィヴィアンウエストウッドを颯爽(さっそう)と着こなしガッツポーズ。逆に教育方針的におめかしに興味を持てなかったSちゃんは、こんないろんな服の着方があるのかと、あれこれ着方を聞きながら目を輝かせていた。
もちろんまったく未練がなかったわけではない。まだまだ低収入で、当時心の飢えを癒すように買ったそれらのお洋服には思い入れがあった。でもこれから生きていく上で、その大事なお洋服をハンガーにかけておくだけなのはいかにももったいない。だったら、ネット上で出会った大事な妹のような友達に譲りたい。その方がお洋服も輝いてくれるはずだ。そして私は、また今の自分にぴったりな装いを見つける自分に出会いたい。
時代を次に、そして自分を前に。その思いは次第に強くなる。少しずつでもいいから、次にやってくる人たちに何か与えられますように、そして私ももっともっと、新しい世界が見えますように。
そう思って散々遊んで1人で帰宅すると、2人が寝ていた布団は2人の佇(たたず)まいのように、綺麗(きれい)に柔らかに畳まれてあった。まだまだ、私も与えられているのだ。
(岐阜市出身)
のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。









