皮膚科医 清島真理子氏

 今回はアトピー性皮膚炎の新しい治療についてお話ししましょう。アトピー性皮膚炎は、よくなったり悪化したりを繰り返す、かゆみのある湿疹です。多くの場合、幼少期に発症して、年齢とともによくなりますが、一部では成人になっても重症の状態が続く人もいます。

 アトピー性皮膚炎の皮膚で何が起こっているかという研究が進んできました。①皮膚バリアー機能の低下②炎症反応③かゆみ―の三つへの対策が重要と考えられています。アトピー性皮膚炎の皮膚はバリアー機能の維持に大切な成分が減ってバリアー機能が低下していますし、また、かゆいとかいてしまうことにより、いろいろなアレルギーの原因物質が皮膚に入ってしまいます。それに反応してインターロイキン(IL)4、13、31などのサイトカインが放出されて炎症やかゆみが起こります。ですからこの悪循環を断ち切ることがアトピー性皮膚炎の治療では大切です。

 それではどんな治療があるのでしょうか? 表の通り、まず塗り薬でバリアー機能の低下を補い、皮膚の炎症を鎮めます。そのためには保湿薬(ヒルドイドやワセリンなど)とステロイド外用薬(強いものから弱いものまであります)、プロトピック軟膏(なんこう)、コレクチム軟膏を使います。また新薬であるモイゼルト軟膏も6月中に使えるようになります。かゆみに対して抗ヒスタミン薬の飲み薬も用います。紫外線治療を併用することもあります。

 このような治療で日常生活に支障を来さない状態までに良くして、その後、この良い状態を維持する治療を続けます。油断することなく治療を続けることが大切で、こういう方法をプロアクティブ療法と呼びます。例えば、症状がほとんどなくなっても週に1、2回塗り薬を続けるという方法です。その方が、再発が少なく経過が良いという研究結果があります。

 しかし、重症の場合には、塗り薬だけではよい状態まで到達できないこともあります。その場合には全身療法があります。飲み薬として免疫抑制薬のネオーラルや最近ではJAK(ヤヌスキナーゼ。略してジャックと呼びます)阻害薬があります。これらを使い始める前には結核やウイルス性肝炎がないか、肝臓や腎臓に障害がないかなどを確かめる必要があります。JAK阻害薬はサイトカインを抑えることで皮膚の炎症やかゆみを改善します。

 注射ではデュピクセント(IL-4/13受容体抗体)が有効です。またミチーガ(IL-31受容体抗体)ももうすぐ使えると聞いています。これらはそれぞれのサイトカインの働きを抑えます。重症のアトピー性皮膚炎で全身の赤みとかゆみに苦しんできた患者さんから、JAK阻害薬やデュピクセントによってかゆみから解放されてよく眠れるようになり、快適に暮らせるようになったという話を聞くと、新薬の効果を実感します。

(岐阜大学名誉教授、朝日大学病院皮膚科教授)