JR岐阜駅前で見られた「障がい」表記の看板=岐阜市橋本町

 「障害者という言葉に、『害』の字を使うのはなぜ?」。そんな疑問の声が、無料通信アプリLINE(ライン)で読者とつながる「あなた発!トクダネ取材班」に岐阜市の60代男性から寄せられた。害虫、災害、迫害-。害の字を含む言葉を思い浮かべると、決して良い意味とはいえないものが並ぶ。東京パラリンピックでも種目のクラス分けなどに「障害」の表記が見られる。取材すると、見解はさまざまで、書き方を統一するのが難しい実情が見えてきた。

 表記を巡っては、内閣府の障がい者制度改革推進会議で2009年ごろに議論している。当時の会議資料によると、平仮名を交える「障がい」、戦前から使われた「障碍」など多様で、地方自治体や福祉団体、報道機関などによって見解が分かれており、「新たに特定のものに決定することは困難」と結論付けている。

 県内自治体では06年の高山市を皮切りに、公文書などの表記を「障がい」に変える動きが出た。岐阜市は担当課の名称も「障がい福祉課」だ。県外では兵庫県宝塚市が19年から公文書に「障碍」を採用。「妨げ」などの意味がある「碍」の字に、社会の中の壁をなくしたいとの思いを込めた。

 ただ、政府の発表資料のほか、マスメディアが用いる「障害」表記は根強い。岐阜新聞では、加盟する共同通信社の基準に沿い、固有名詞を除き「障害」を使う。「碍」が常用漢字でないことや、漢字と平仮名の交ぜ書きを避けるためだ。

 海外ではどう表しているか。外国人住民の生活相談などに当たる県国際交流センター(岐阜市)のスタッフでフィリピン出身の長屋・ジネット・グチエレスさんは英語が母国語。「『全てできない』という意味のdisable(ディスエーブル)から、最近ではdisability(ディサビリティー)に変わってきた」と話す。「『何かができない』の意味だけど、逆に『それ以外の何かはできる』とも取れる」。英語にはhandicap(ハンディキャップ)もあるが、物乞いを連想させ、不快用語として受け取られる恐れがあるという。タガログ語では「may(メイ) kapansanan(カパンサーナン)」。直訳すると「できないを持つ」となるそうだ。

 一方、ポルトガル語では「pessoas(ペソアス) com(コン) necessidades(ネセシダデス) especiais(エスペシアイウス)」で、「特別な補助が必要な人」。ブラジルで教材を編集する仕事をしていた、日系4世の男性(28)は「かつては『deficientes(デフィシエンテス)』で『何かが足りない』という意味合いが強かった」。ブラジルでは障害者を保護する法整備が進み、近年は現地の新聞での表記も置き換えられていったという。

 当事者の考えはそれぞれだった。脳性小児まひで生まれつき体が不自由で、岐阜市のグループホームに暮らす男性(49)は「社会に害を与える存在ではないのに害の字はおかしい」と訴える。一方、自閉症の子を育ててきた同市のパート女性(52)は「あえて平仮名にされる方が嫌な感じもする。重要なのは言葉よりも世の中の考え方を変えること」と話す。

 「害は当事者本人にあるのではなく、差別や偏見を向ける社会の側にある」と話すのは、障害福祉事業を展開する一般社団法人「サステイナブル・サポート」(同市長住町)の後藤千絵代表理事。「言葉を変えるだけでは根本的な解決にならない。誰もが生きやすい社会づくりに向けて、パラリンピックを好機にしなければ」と期待した。

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