岐阜金賞をニューホープで勝った佐藤友則騎手と、笠松重賞初制覇を喜び合う吉田勝利オーナー(左)

 「うまいなあ、ありがとう」。佐藤友則騎手の好騎乗をたたえて、がっちりと握手を交わしたのは、県馬主会副会長を務めている吉田勝利オーナー。持ち馬である金沢のニューホープ(牡3歳、中川雅之厩舎)が完勝といえる強い競馬で、29日の笠松競馬・3歳重賞「第43回岐阜金賞」(SPⅠ、1900メートル)を制覇。吉田オーナーにとっては、うれしい地元・笠松での重賞初Vとなった。
 
 岐阜金賞は、JRAの菊花賞に相当する3歳クラシック戦で、名古屋の駿蹄賞、東海ダービーに続く3冠レース最後の1冠。これまでは菊花シリーズの10月中旬に行われていたが、今年は前倒しされての実施。兵庫、金沢、名古屋から1頭ずつ、笠松勢7頭が参戦。佐藤騎手が金沢・ニューホープ、筒井勇介騎手が兵庫・ビッグシューターと、笠松の名手2人が遠征馬での騎乗依頼を受けた。地方競馬「3歳秋のチャンピオンシップ2019」シリーズの一戦として、1着賞金は500万円に増額された。

岐阜金賞のゴール前。佐藤騎手、筒井勇介騎手が騎乗した遠征馬によるワンツーフィニッシュとなった

 レースを引っ張ったのは、笠松のライトリー(花本正三厩舎)で、前日に5勝を飾った渡辺竜也騎手が果敢な逃げに出た。2番人気のニューホープは3、4番手の好位をキープ。3コーナー手前で佐藤騎手が仕掛けると、抜群の反応で一気に先頭を奪い、最後の直線でも他馬を寄せ付けずに押し切った。1馬身半差の2着にビッグシューターで、このレースに強い兵庫勢(ここ10年で5勝)が実力を発揮。3着には松本剛志騎手が騎乗した笠松のナラ(湯前良人厩舎)が突っ込んだ。単勝1番人気のニホンピロコレール(川嶋弘吉厩舎)は3コーナーで失速し、しんがり負けとなった。

 ニューホープは父フリオーソ、母ハタノシュヴァリエ。門別デビューで岩手、笠松、金沢へと移籍。盛岡・若駒賞で重賞勝ち、石川ダービーでは3着だった。笠松では尾島徹厩舎に所属し、新緑賞は佐藤騎手で2着、中京・ファルコンS(GⅢ)にも挑戦したが完敗。重賞は2勝目で、金沢勢の岐阜金賞Vは初めて。

 勝利騎手インタビューで佐藤騎手は「オーナーが『地元笠松の重賞を勝ちたい』という気持ちが強いのをよく知っていたので、勝てて良かったです」と笑顔。この春に2度騎乗した頃と比べて、「馬もぐっと大人になっていて成長が感じられた。返し馬やゲートに向かう時には、工夫して少しでも前へと。3コーナーで手応えが良くて、筒井騎手のビッグシューターの追撃をしのいで、勝てると思った。乗りやすい馬で、動じない精神力を持っているので、もっと活躍してほしいです」と振り返った。

 この7月、佐藤騎手は盛岡でのジャパンジョッキーズカップ個人総合Vや、ストーミーワンダーでの金沢スプリントC勝ちはあったが、「このところは2着が多くて、悔しい気持ちもありました」と、勝利の味にちょっと飢えていたようだ。そんな中、地元での重賞Vをきっちりと決めて、最後は「やっぱり、笠松が日本で一番大好きな競馬場です」と決めぜりふで締めくくり、多くのファンを喜ばせた。

岐阜金賞優勝のニューホープを囲んで喜びの関係者

 中川調教師は、勝ったニューホープについて「母と同じような乗り味で、内へ寄って走るタイプ。きょうは馬場状態も良くて、勝てる時はこんな感じかなあと。この後は、岩手へ移籍する予定です」と。暑さに負けない馬で、自ら調教から丹念に乗り込んで仕上げて、好結果につなげた。佐藤騎手も「馬の状態がすごく良かったんで、強気の競馬ができました。馬づくりがうまくて、先生(中川調教師)のおかげで、乗りやすかった」とたたえていた。

 サッカーJ2のFC岐阜元取締役でもあり、スポーツに競馬に地元愛あふれる吉田オーナー。3歳若駒ニューホープによる待望の「笠松重賞初Vゴール」が決まって、スタンド前は歓喜の輪が広がった。表彰式での優勝馬の口取りでは、佐藤騎手や吉田オーナーの家族らとともに、尾島調教師、井上孝彦調教師に深澤杏花騎手候補生も参加。「チームKASAMATSU」の未来を背負うスタッフたちと喜びを分かち合った。

ニューホープの岐阜金賞Vを祝う関係者

 JRAの所有馬では今年6月、ミスマンマミーアで木曽川特別(中京)を勝利しているが、地方競馬への思い入れがより強い吉田オーナー。「馬主になって17年。悲願の笠松重賞をやっと勝てました」と最高にうれしそうだ。「金沢から挑戦という荒業でしたが、関係者の皆さまの協力のおかげです。ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えている。ニューホープは岩手に転厩後、「不来方賞」(9月16日)などで、どんな活躍を見せてくれるのか。岐阜金賞を勝ったことで、優先出走権を獲得した盛岡・ダービーグランプリには挑戦してもらいたいが...。岐阜金賞とダービーグランプリの双方優勝にはボーナス賞金800万円が贈られるだけに、期待が高まる。

 終わってみれば、笠松リーディング1、2位の佐藤騎手、筒井騎手が騎乗した遠征馬によるワンツーフィニッシュとなった今年の岐阜金賞だが、実施時期については「何で8月に」と感じたファンも多かったようだ。

 岐阜金賞は、一昨年スタートした地方競馬「3歳秋のチャンピオンシップ」の一戦に組み込まれている。3歳馬の秋後半の古馬との対戦(JBCなど)をより促すため、本年度からシリーズ全体の実施時期を前倒し。3歳王者の座を競う最終決戦「ダービーグランプリ」(盛岡)が10月6日に開催されることに伴い、岐阜金賞は8月末の開催となったのだ。

 そのほか、東海・北陸・近畿地区の3歳重賞は、9月初旬に名古屋・秋の鞍(3日)、園田オータムトロフィー(5日)、金沢・サラブレッド大賞典(8日)と続いて過密日程。昨年までのように9月・秋の鞍→10月・岐阜金賞のローテーションは消滅。今年は、岐阜金賞→秋の鞍で「中4日」となり、厳しい日程となった。かつて、酷使に耐えて全国の重賞を連闘した笠松のトウホクビジン(09年、岐阜金賞V)やタッチデュールのような「鉄の女」でなければ、両方のレースに出走することは難しくなった。

昨年の岐阜金賞のゴール前。兵庫のクリノヒビキが名古屋のサムライドライブを差し切って優勝を飾った

 近年の岐阜金賞では、一昨年優勝のドリームズラインが24年ぶり、史上4頭目となる「東海3冠馬」に輝いた。昨年は名古屋の女傑サムライドライブが秋の鞍を制覇し、笠松に初参戦したが、兵庫のクリノヒビキ(赤岡修次騎手)の追い込みに屈し、2着に惜敗した。今年の駿蹄賞、東海ダービー馬であるエムエスクイーンは岐阜金賞で3冠馬を狙わず、秋の鞍に向かう予定で、「東海3冠」の権威は揺らぎつつある。

 地方競馬のレース体系の変化は「時代の波」ではあるが、笠松競馬の伝統の一戦として、充実の秋を彩ってきた岐阜金賞が8月に実施されるのは、やはり違和感がある。ダービーグランプリ馬を11月のJBCに挑戦させたい意図はよく分かるが、来年以降の岐阜金賞は、9月に入ってからでもいいのでは...。

 昨年の岐阜金賞優勝馬クリノヒビキはダービーグランプリでも2着と好走しており、今年勝ったニューホープも大いに期待できる。岩手で成長して活躍してほしいし、そして、いつかまた笠松に戻ってきて、オグリキャップ記念や笠松GPを盛り上げてほしいものだ。笠松競馬活性化に尽力されている吉田オーナー、よろしくお願いします。