昨年4月、桜は満開となったがコロナ禍で無観客レースが続いた笠松競馬場。自粛続きの今年の開催はどうなるか

 5開催連続のレース自粛で「凍結状態」だった笠松競馬場にもようやく、ひたひたと春の足音が聞こえてきた。騎手、調教師らが馬券を購入していた事件で、警察の捜査に進展があった。不正行為を根絶し、失墜した信頼を回復させるため、クリアすべきハードルはまだ高いが、「4月再開」へ一歩前進したといえよう。堤防沿いの桜並木も満開になる季節で、「早くレースを観戦したい」と待ちわびるファンのためにも、新緑賞シリーズ初日の1日に再開してほしいものだ。
 
 厩舎関係者の馬券購入事件では2016年、ばんえい競馬の騎手ら13人が競馬法違反の疑いで書類送検されたことがあるが、開催自粛に至らず、レースは続行された(通年開催)。一方、同様の事件が起きた笠松競馬では長期間自粛が続いているが、主催者の対応はどうなのか。所属馬は減少しており、真面目に働いてきた多くの騎手、厩務員らは大幅な収入減で厳しい生活を強いられている。

 今月3日、地元新聞社のインターネット上やテレビなどで一斉に流れたニュース。

 岐阜県警は、笠松競馬のいずれも30代の元調教師1人と元騎手3人を、競馬法違反(馬券購入)の疑いで近く書類送検する方針を固めた。このうちの元騎手1人と知人男性1人は、馬券購入のための口座を授受したとして、犯罪収益移転防止法違反の疑いでも書類送検する見込み。
 
 岐阜県警は昨年6月、元調教師と元騎手3人の自宅などを家宅捜索。8月、4人はNAR(地方競馬全国協会)の免許を更新されずに引退扱い。今年1月には名古屋国税局が摘発した騎手、調教師ら20人による約3億円の所得隠し・馬券購入問題も発覚し、第三者委員会で関係者への聴取などが進められている。

 古田肇知事は「遅くても3月には再開したい」との見通しを示していたが、年度末開催となる16日からの再開も「待った」となった。事件発覚から9カ月近く、警察の捜査が大詰めを迎えたことでは、地方競馬組合も対応がしやすくなった。4月開催に向けてタイムリミットは迫っているが、調査結果や再発防止策を発表して、すっきりと新年度を迎えたい。

レース再開に向けて攻め馬に励む渡辺竜也騎手

 ■賞金も手当もなく、収入激減で日増しに厳しい生活
 
 笠松競馬の現在の騎手数は15人で調教師は19人。事件では1月12日の開催を最後に、5開催23日間もレースが中止になった。ズルズルと自粛が長引いており、厩舎関係者にとっては死活問題にもなっている。レースが開かれないことには、馬主は賞金・出走手当を得られず、厩舎への預託料が払えなくなる。騎手、調教師、厩務員も賞金の進上金や手当はゼロだ。騎手はレース日の調整ルーム費(1晩6000円ほど)の手当もなくなり、ホースマンたちの生活は日増しに厳しくなるばかりだ。

 競走馬が他場へ移籍すれば、厩舎への預託料はなくなり、調教師らの収入も激減する。笠松の厩舎で管理する競走馬は約530頭いたが、1カ月ほどで70頭も減ってしまった。騎手はほぼ毎日馬に乗っていたが、調教日は減り、レースに向けたモチベーションも上がらず、馬のストレスを解消させる運動程度。通常なら多い騎手で28頭ほどの攻め馬をこなしていたが、15頭前後に減っているという。攻め馬料はわずかだが、騎手にとっては貴重な収入源でもある。渡辺竜也騎手は動画で元気な騎乗姿を見せてくれ、前向きな気持ちを見せてくれた。

 厩務員は約80人。餌やりや体調のケアなどで愛情を注ぎ、厩舎でも「人馬一体」の暮らし。給料は所属馬1頭を世話すれば4万~7万円(厩舎によって幅がある)で、5頭なら25万円前後。事件の調査がこれ以上長引いて、世話する愛馬がさらに他場へ流出すれば給料に大きく響く。管理する調教師も競走馬が大幅に減れば、廃業に追い込まれてしまう。

 家宅捜索が行われた今回の事件。書類送検容疑は、元騎手3人と元調教師は現役だった2019年暮れから20年春にかけて、知人らの口座を借りてインターネットの馬券購入サイトに登録し、複数回にわたり笠松競馬の馬券を購入していた疑い。元騎手とその知人については、不正な馬券購入に使用するため、知人名義の預金通帳口座の授受があったとみられる。4人は共謀して馬券を購入していたほか、元騎手3人で結託して購入したり、他の調教師や知人らと買い求めることもあったという。

 調教師や騎手でつくる岐阜県調騎会は「再発防止のためチェック機能を強化。信頼回復を徹底し、レース再開を目指したい」と一丸になって現場の浄化に努め、意識改革を図っていく決意を示している。

ばんえい競馬で熱戦を繰り広げる人馬。5年前には騎手ら13人が馬券購入の疑いで書類送検された

 ■5年前、ばんえい競馬騎手らが馬券購入容疑で書類送検

 厩舎関係者の馬券購入事件は、ここ数年、全国の地方競馬でも発覚している。昨年に高知競馬、一昨年には岩手競馬で厩務員がともに競馬法違反(馬券購入)の疑いで逮捕された。5年前には大型馬が鉄そりを引くばんえい競馬(北海道帯広市)で発覚し、騎手1人を含む13人が馬券購入の疑いで書類送検された。騎手らによる今回の笠松競馬の事件は全国で2例目となる。

 ばんえい事件の推移は、闇が深い笠松事件の行方にも影響を及ぼしそうで、前例として、発覚から行政処分まで約1年間の動きを振り返った。

 2016年2月、ばんえい競馬の騎手らが馬券を購入していた事件で、北海道警は競馬法違反の疑いで元騎手(43)や厩務員ら計13人を書類送検した。地方、中央競馬で騎手が直接馬券を購入して書類送検されたのは初めてだった。
 
 書類送検容疑は、15年4~12月にインターネットのサイトを通じて、ばんえい競馬と北海道競馬の馬券を購入した疑い。帯広署によると、書類送検されたのは元騎手のほか、厩務員1人、元厩務員10人、元厩務員の妻1人。本人や妻の名義で馬券購入サイトに登録し、最も多い例では1人で約7000件、約400万円分を購入していた。

 馬券を買った13人は、競馬法で禁止されていることは認識していたが、ネットでの馬券購入が口コミで関係者に広がっていた。「馬の調子が分かるので、調子の良い馬の馬券を買えばもうかると思った」などと話し、1人が約50万円の利益を得ていたが、12人は損失を出していたという。

 事件は「厩舎関係者が馬券を購入している」との市への匿名電話があり、15年12月に発覚、北海道警が競馬法違反の疑いで厩舎などを家宅捜索。元騎手はNARから免許を更新されず、資格を失った。騎乗したレースの馬券は購入しておらず、八百長の事実は特定されていないとしている。

 帯広市は16年3月にファンの信頼を回復するための再発防止策を発表し、不正行為の根絶を宣言した。10月、帯広区検は元騎手1人と元厩務員9人を競馬法違反罪で略式起訴(3人は不起訴処分)。帯広簡裁は罰金40万~20万円の略式命令を出した。

 12月には帯広市が行政処分を発表。元厩務員4人を競馬関与停止3年、元騎手1人と元厩務員5人を競馬関与停止2年とする行政処分を決めた。また、調教師7人を指導監督不十分として戒告処分とし、賞典停止20日間とした。 

2019年のオグリキャップ記念を制覇し、ファンの前で雄姿を披露するカツゲキキトキト

  ■4月29日のオグリキャップ記念はファンの前で!

 笠松競馬が自粛中に、通年ナイターの高知競馬は馬券売り上げ10億円超えが多くなり、3月2日には昼間に開催された川崎競馬を2600万円ほど上回ってしまった。低迷期には1日約4000万円にまで落ち込んでいた時代がうそのような超V字回復ぶりだ。凡走続きの馬ばかりを集めた「一発逆転ファイナル」などアイデアレースもあり、勝ち組に大変身した。

 西日本では、昨年再開された姫路(兵庫)やナイター競馬になった佐賀は6億円超の日も目立つ。コロナ禍にあって「おうちでネット競馬」が定着。うらやましいほどの数字だが、「このうちの何割かは、笠松が開催されていれば、買ってもらえただろうに」と思うと、現在置かれている状況が歯がゆくなる。ゲートインの段階で、暴れて除外となった競走馬が馬券対象外になったようなものだ。例年、冬場は金沢をはじめ、北海道・門別や岩手の開催が休止となり、笠松の売り上げがぐっと伸びるシーズンだっただけに、なおさら残念だ。

 1~3月には伝統あるゴールドジュニア、ウインター争覇、マーチカップの3重賞が中止になった。新年度の重賞を含めた開催日程が既に発表されており、4月最初の「新緑賞シリーズ」は1~2日、12、14~16日の変則日程。途中に名古屋開催(5~9日)が挟まれ、例年4月初めに行われていた重賞・新緑賞は15日に予定。所得隠し・馬券購入の事実関係究明の状況によっては、この週に再開の照準が合わされる可能性もある。
 
 続く「オグリキャップ記念シリーズ」は4月28日から。今年は祝日の29日に笠松最高賞金(昨年・1着1200万円)の看板レースであるオグリキャップ記念が開催予定。昨年はコロナ禍で無観客だったが、今年は観客入りレースが可能な状況にあり、全国のスタミナ自慢の強豪を集めて、大勢のファンの前で熱戦を繰り広げたい。