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オグリの里

笠松競馬の歴代リーディングら次々「退場」

立ち上がれ、あしたのために=その12



熱戦を繰り広げる笠松競馬のレースで、人馬を応援するファンたち

 馬券を買って応援してくれた多くのファンを裏切り、不正購入で得た「黒いカネ」に群がった笠松競馬の騎手、調教師たち。主催者から計12人に「レッドカード」が突き付けられ、歴代のリーディング騎手たちも次々と「退場」になった。

 存続のため、常に綱渡りが続く笠松競馬場の運営。近年相次いだ放馬事故などで、存続は既に「赤信号点滅」状態にあった。現役騎手はわずか10人になり、「笠松の顔」たちを失った寂しさに覆われた競馬場。調教段階から騎手が足りず、厩舎関係者らの現場は崩壊寸前。さらなる混乱が続き、クリアすべきハードルは高いが、馬券購入の不正グループを排除し、生き残りに全力を尽くす構えだ。
 
 注目された現役の騎手、調教師名と処分の内容。「競馬関与停止5年」などの処分が実名で発表され、驚かされた。「停止は1~3年程度で、実名は出さないだろう」との読みは外れてしまったが、「変革」の大ナタが振るわれ、競馬場刷新への決意の表れとなった。「厳しい処分ですね」「当然でしょう」といった声が聞かれたが、これで不祥事の幕引きではなく、人馬が再びゲートインするための第一歩。厩舎、組合関係者が一丸となって「浄化・再生」を進め、レース再開を目指していきたい。
 
 騎手らによる馬券不正購入グループの暗躍。ネット上などでは「買った馬券代を返せ」「もう、つぶしてしまえ」といった声も目立った。それでも厩舎関係者の内部告発に始まり、競馬組合が警察に捜査を依頼、家宅捜索につながった。組合が内部告発を握りつぶしていれば、事件は明るみにならなかったが、馬券購入グループによる「搾取」は今も続き、被害は拡大。いずれは競馬場自体が腐り果てていたことだろう。

 馬券不正購入が、岐阜県警の家宅捜索で昨年6月に発覚して10カ月。岐阜県地方競馬組合による記者会見がようやく行われ、「笠松競馬の信頼回復に向けて」として、対象者の処分や再発防止策が発表された。競馬場を舞台にした馬券購入グループは、第三者委員会の報告だけでも約4年間で1億4000万円の収益を得ていた。「八百長」とは認定されなかったが、自分たちが騎乗したレースの馬券をグループ購入するなどした「不正の闇」は深かった。

騎手らの馬券購入など一連の不祥事について、謝罪する管理者の古田聖人笠松町長(中央)ら

 会見会場は競馬場近くの笠松中央公民館。前回訪れたのは経営難で存廃に揺れた2004年11月で、「笠松競馬を未来につなげる集い」が開かれた。JRAに移籍した安藤勝己騎手も駆け付け、地方競馬を支える全国の有志が笠松存続を訴えた。同じような逆風を受けて開かれた今回の会見は午後7時にスタート。30人ほどの報道陣が集まり、2時間に及ぶ会見内容は、動画配信(岐阜新聞Web、ノーカット)で見ることができる。記者からの質問は70分以上に及び、疑惑が追及された。

 ■「関与禁止」は引退した騎手3人、調教師1人

 今回の処分で最も重い「競馬関与禁止」は4人。岐阜県警が競馬法違反で書類送検し、罰金の略式命令を受けた元調教師(37)と元騎手(39)、元騎手(37)、元騎手(35)で、長期間にわたってグループで馬券を購入し、情報提供者に金銭を供与。事件の中心的存在になった。「関与禁止」では、騎手・調教師免許(NAR=地方競馬全国協会が管轄)が無期限で取り消され、事実上の「永久追放」となった。競馬場への入場ができないほか、インターネット馬券購入サイトへの登録もできず。それでもネット上などでの予想行為については、発言を制約できないため、禁止できないという。

 なお、過去には「関与禁止」処分が解除された元騎手がいる。南関東のトップジョッキーで、川崎競馬に所属していた本間茂元騎手。外部に騎乗馬の情報を漏らした八百長疑惑で、1990年11月に特別区競馬組合から処分を受けて騎手を引退。西山牧場阿見分場(茨城)の場長として競走馬育成の仕事を続けてきた。2012年6月、22年ぶりに「関与禁止」処分が解除されている。

 ■「関与停止」は現役の騎手5人、調教師3人

 2番目に重い処分である「競馬関与停止」を受けたのは現役の騎手5人と調教師3人(騎手時代を含む)。最長の「停止5年」は調教師(58)、調教師(51)、騎手(45)、騎手(37)の4人で、馬券購入と情報提供料を供与。

 馬券購入グループに騎乗馬の情報提供を行った見返りに現金を受け取ったのは4人(騎手時代を含む)。「停止2年」が調教師(44)、「停止1年」は騎手(36)、騎手(38)、「停止6カ月」は騎手(56)。

 情報提供料を受け取った者のうち、公訴時効が成立していない2人については、岐阜羽島署に競馬法違反容疑(収賄)で刑事告発した。

 このほか調教師(60)が常習的なセクハラ行為で調教停止90日となったほか、厩舎を使えなくなった。適用事項がないため、競馬関与停止には至らなかった。

 ■名手として一時代を築いたが

 この結果、笠松競馬の歴代リーディングジョッキーたち(2005年以降)の姿が競馬場から次々と消えてしまった。5人のリーディング経験者は、名馬に騎乗して重賞勝利も多く、ウイナーズサークルでは満面の笑みでファンと交流していた姿はまぶしかった。それぞれ名手として一時代を築いたが、輝かしい笠松競馬の歴史に泥を塗ってしまった。
 
 05~12年は笠松競馬の経営が最も苦しかった時期で、騎手らの賞金・手当は大幅カットが続いた。賞金は現在も1990年代の3分の1程度。第三者委員会の報告書では、年間所得が100万円台の騎手が多くみられるなど笠松競馬の賞金の低さについて触れ、「経営の問題点を解決し、待遇改善を考慮していく必要がある」とした。これに関連して、東川公則調教師は昨年3月の騎手引退直後に「今もレース賞金や手当は安い。騎手というのは華のある仕事だから、もっと稼げるように、待遇を良くしてほしい。競馬の花形である乗り役さんを大事に扱ってほしい」と話していた。今回の事件で競馬場を去ったが、苦境の時代に長年騎手会長を務めたこの男の声が印象的だったので、主催者に届けたい。              

笠松競馬の騎手一覧。5人が競馬関与停止の処分を受け、所属騎手は10人に減ってしまった

 NARでは、笠松競馬の8人が「競馬関与停止処分」になったことをを受けて、各調教師、騎手の免許取り消しを4月21日付で即日発表。8人は「引退扱い」になった。NARでは「笠松競馬の事件を重く受け止めて、全国的な対応策をとりまとめ、地方競馬全体の公正確保策を強化していく」としている。笠松競馬の事件と処分が教訓になって、同じような「黒いうわさ」がささやかれていた各地の浄化につながることを願いたい。

 ■騎手5人が「引退扱い」、所属騎手一覧は10人に

 笠松競馬ホームページの所属騎手紹介では、関与停止で引退扱いになった5人の写真が削除され、現役は10人になった。

 所属騎手を確認しようとホームページを開いたところ、一時的に掲載が9人になっていた。「1人足りないぞ、誰か他場へ移籍したのか」とドキッとさせられたが、たまたま更新作業の途中だったようだ。

 競馬場正門や東門に掲示されている所属騎手一覧からも、5人がひっそりと消されていた。長年、競馬場に通って応援して、お目当ての騎手を応援してきた笠松競馬ファンの間では、何ともいえない「寂しさ」「切なさ」が広がった。             

レース再開に向けて攻め馬に励む深沢杏花騎手

 超少数精鋭の10人。このうち3人はデビュー1、2年の「見習騎手」でもある。1日全レース騎乗に対応できる体力の強化と、騎乗技術の向上が求められる。

 3人はそれぞれに厳しい再スタートとなる。東川慎騎手(20)は、父の管理馬で重賞Vを目指していたが、その夢はかなわなくなった。深沢杏花騎手(19)は20年ぶりの女性ジョッキーとして昨春デビューしたが、所属厩舎の調教師が関与停止処分を受けた。残った騎手ではただ1人、所属先の変更が必要になり、田口輝彦厩舎に移籍することができた。田口調教師夫妻はともに元騎手で、奥さんは笠松競馬初の女性ジョッキーだった中島広美さん。深沢騎手は、頼もしい先輩の背中を追って騎乗に励むことになる。

 昨秋デビューした長江慶悟騎手(21)は、レース前の返し馬での落馬事故で大けがを負った。復帰後の今年1月、初勝利を飾ったが、すぐに開催中止になってしまった。22日からの朝の調教では、騎手不足が一層深刻になった。所属馬は418頭(4月23日現在)にやや減ったが、10人の現役騎手は精力的に攻め馬に励んでいる。成長著しい水野翔騎手(24)、渡辺竜也騎手(21)はもちろん、若手騎手たちの活躍を期待したいが、厳しい状況にあって、けが人が出ないことを祈るばかりだ。

 ■「6月9日からのレース再開は◎」

 処分と再発防止策が発表されたが、課題は山積みでレース再開にはなお時間を要するもよう。今回の事件を受け、総務省では笠松競馬のレース開催に必要な指定手続きをいったん保留し、審査を継続中(指定は3月末で期限切れ)。「対象の笠松、岐南町から提出される再発防止策などの適正さを審査して、指定を判断したい」とのことだ。過去には、競艇で同様のケースがあったという。

 笠松競馬再開は先送りが続いて、5月12~14日の開催も中止が決まった。競馬組合では、早ければ5月26日から再開したい意向だが、ゴールデンウイークを挟んでおり、手続きに時間がかかる見通し。当欄では、騎手らの所得隠し発覚直後から「スピーディーな対応で浄化を」と提案。動きが鈍い競馬組合に対して、レースの早期再開を訴えてきたが、主催者サイドからは「6月9日からのレース再開は◎」との確約もあった。今後は「不祥事のデパート」を閉鎖し、かつての「走るドラマ笠松競馬」を復活させて、ファンへの信頼回復に努めていきたい。