昨年の岐阜金賞はダルマワンサが制覇し、ニュータウンガールは2着で「東海3冠」ならず。笠松勢がワンツーで地元の意地を見せた

 不祥事続きで真っ暗闇だった笠松競馬の長~いトンネルに、ようやく出口が見えてきた。ファンの入場門も人馬のゲートも「開かずの扉」状態が半年続いているが、再開に向けた一条の光が差し込んできた。

 競馬組合は9日、騎手ら厩舎関係者81人による新たな所得申告漏れの内容と対象者の処分を発表。レース再開に必要な公営競技団体の指定手続きを総務省に申請。手続きの完了にはなお時間を要するが、組合は国の指定が下りれば、速やかに再開を発表したい意向だ。4月以降、笠松競馬は国の指定が保留状態で、レースを開催できない状態が続いている。
 
 一連の事件発覚から1年余り。騎手、調教師の馬券不正購入というファンへの裏切り行為で、再開に対しては厳しい意見は多い。騎手8人、調教師4人が「関与禁止、停止」となった4月の処分発表後も、SNS上の懸賞金受領、新たな所得申告漏れの問題で、再開は先送りされてきた。夏競馬も開催できない非常事態に、競馬組合や厩舎関係者らは「今が正念場で、踏ん張りどころ」と前向きな姿勢で連携。クリーンな競馬場に生まれ変わってファンの信頼を取り戻そうと「浄化、再生」へ懸命に取り組んでいる。

 今後、新たな問題が浮上しなければ「8月末のレース再開」も視野に入っており、東海公営3歳クラシックロード最終戦の「岐阜金賞」(8月26日)開催の可能性も出てきた。「再開時期」の主催者側の意向は、これまで何度も覆されてきただけに、まだ安心できないが、大詰めを迎えていることは確かだ。コロナ禍ではあるが、名古屋競馬は観客入りで開催されている。長年、笠松競馬場に足を運んできたオールドファンの間では「岐阜金賞を見たい」という声もあり、何とか8月25日からの開催に間に合わせたいところだ。

開催自粛が半年も続く笠松競馬場で攻め馬に励む騎手たち

 ■騎手ら81人で1億1400万円の所得申告漏れ、修正金額1000万円超も

 競馬組合による所得申告漏れ再調査を受けた114人のうち、騎手10人、調教師4人、厩務員67人の計81人が自主的に名古屋国税局への修正申告を済ませた。修正した額は昨年までの5年間で計1億1406万円(追徴税額946万円)。本来の業務に関する所得で、馬券購入による利益ではない。修正金額では、騎手1人、厩務員1人が1000万円超。500万~1000万が計3人、100万~500万円が計20人いた。1人平均では約140万円になる。

 4月に出された第三者委員会の報告書では、年間所得が100万円台の騎手が多くみられ、100万円以下の騎手もいることや笠松競馬の賞金の低さについて触れ、このような状況が違法行為につながった可能性にも言及していた。これについては、競馬の花形であるジョッキーの収入にしては低過ぎると感じていたが、やはり、騎手の攻め馬手当などは含まれていなかったし、個人事業主として必要経費の認識はあいまい。厩務員への調査も不十分だった。

 厩舎関係者の処分は、4月の時点で修正申告していた3人を含めて計84人。追徴税額に応じて訓告、文書注意、口頭注意の処分を受けた。申告漏れは意図的ではなかったと認められたが「日頃からの帳簿作成漏れ、必要経費の認識不足などの過失、無知が原因」とした。

 自主申告の内容は、①調教時、各厩舎から騎手に支給される1回300円程度(保険料50円込み)の攻め馬手当②企業などによる協賛レースで、優勝馬の騎手らに提供される協賛金③レース前日から調整ルームに寝泊まりすると支給される手当(1晩6000円ほど)④必要経費の修正―などである。組合は再発防止策として、税務申告の際、税理士による税務相談会を設けるほか、現金支払いの攻め馬手当を銀行口座への振り込みに変更するなど、収入金額の管理を徹底させる。

 組合管理者の河合孝憲副知事は「レース開催の自粛が続き、単年度赤字は必至」とし、「ファンの方に大変迷惑を掛けており、改めておわびをしたい。過去の笠松競馬から決別することが求められる。再発防止策を徹底させ、再開できるように道筋をつけたい」と述べた。管理者には今後、笠松競馬の開催が国に許可されれば、速やかに「○月○日から再開します」と明言してもらいたい。

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老朽化した笠松競馬場のスタンド。レース自粛で厩舎関係者への補償費は膨らんでおり、環境整備基金を取り崩している

 ■膨らむ自粛補償費、本年度は大幅な赤字

 1日の県議会一般質問では、田中勝士議員(羽島郡)が笠松競馬再開への見通しや今後の経営課題について質問。古田肇知事と河合副知事の答弁からも、「笠松競馬再生」への意欲が感じ取れた。

 開催自粛となった1月19日以降、競馬組合の収入はゼロ。自粛期間中に、馬主をはじめ騎手、調教師、厩務員に支給されている出走、騎乗手当など(開催時の相当額)の補償費は膨らむばかり。本年度は既に大幅な単年度赤字に陥っており、再開時期のタイムリミットは徐々に迫ってきている。年度初めから半年が経過する9月までに再開しないと、経営面でもさらに厳しい状況に追い込まれてしまう。

 笠松競馬の経営は黒字を確保し、税金を投入しないことが存続のための大前提。「基金を取り崩しての赤字化=即廃止」の構図は変わらず。自粛期間中も厩舎関係者の生活を守り、競走馬の流出を防ぐため支払われる「自粛補償費」は月額2億円にもなるという。財源としては、老朽化したスタンドなどの施設改修や厩舎移転のため積み立てた「環境整備基金」を取り崩してやりくり。近年は好調なネット販売の恩恵で、8年連続黒字を確保し、昨年度までの基金は約38億円に増えていた。環境整備基金(約37億円)と財政調整基金などで、こつこつと蓄積してきたが、大幅に減らしてしまった。

 ■管理者「スピード感を持って、早期再開を最優先」

 6月には河合副知事が農林水産省や総務省、NAR(地方競馬全国協会)に出向き、再開に向けた現状を報告。「理解をいただいた。今後は、馬券のネット販売事業者や他の競馬場にも丁寧な説明を尽くしていきたい。4月以降はマイナスからのスタートだが、新たな魅力づくりにも挑戦していくことも必要」と意欲。目下の最優先課題は「できる限り早期に競馬を再開し、経営を軌道に乗せること。スピード感を持って確実に対策を実行していきたい」とした。
 
 「オグリの里」では、1月から「スピーディーな対応で浄化を」と訴えてきたが、ようやく主催者サイドから「スピード感を持って」という言葉を聞くことができた。馬券販売の上ではクリアすべきハードルは高いだろうが、ネット業者や他場でも馬券を売ってもらえるよう、粘り強く陳情を重ねてもらいたい。

東海ダービーも制覇し2冠馬となったトミケンシャイリと今井貴大騎手ら

 ■「東海3冠馬」はサブリナチェリーなど4頭、今年はトミケンシャイリ2冠

 笠松競馬では、レース名に「岐阜」が含まれるご当地競走は年に3回ある。年末恒例の岐阜新聞・岐阜放送杯と8月の岐阜美少女図鑑カップしろゆり賞(メインレースでは、くろゆり賞)、そして笠松・名古屋の3歳勢が激突する岐阜金賞である。

 岐阜金賞は駿蹄賞、東海ダービー(名古屋)に続く「東海3冠」レース最後の1冠。全国の地方競馬「3歳秋のチャンピオンシップ」(全10戦)の1戦に数えられ、10月3日のダービーグランプリ(盛岡)がファイナルとなり、地方競馬の3歳王者を決定する。NARの実施概要には「笠松競馬については、開催が自粛となることがあります」とあり、依然として先行き不透明。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)と同様に、笠松だけ除外となってしまったら「負の連鎖」で寂しいことになる。

 過去の東海3冠馬は、笠松のイズミダッパー(1980年)、サブリナチェリー(93年)、名古屋のゴールドレット(82年)、ドリームズライン(2017年)の4頭のみ。昨年は2冠を達成した笠松のニュータウンガールが本命視されたが、同じ笠松のダルマワンサに差し切られ、惜しくも「準3冠馬」。今年もトミケンシャイリ(名古屋・竹下直人厩舎)が2冠を達成しており、3冠挑戦を期待したいところだ。岐阜金賞が実施されれば、史上5頭目の東海3冠馬誕生の可能性はある。竹下調教師・今井貴大騎手のコンビでは、一昨年にエムエスクイーンが2冠を達成。岐阜金賞には向かわず、秋の鞍を制覇したが、今年のトミケンシャイリの動向も注目されるところだ。

 コロナ禍により、予約制などの入場制限はあるが、全国的には夏競馬真っ盛り。地方はもちろん、中央もローカル開催で「旅打ち&グルメ」を満喫できるシーズン。東海3冠ロードの岐阜金賞が開催できれば、ご当地レースを知ってもらえる絶好の機会にもなる。競馬再開後は、入場者やネットでの購入者にも、思い切ったファンサービスを行って「新生・笠松競馬」をアピールしていきたい。