ビッグレースの笠松グランプリを勝ち、スマイル全開の多田羅誠也騎手

 笠松競馬レジェンドのアンカツさん(安藤勝己元騎手)がパドック解説も務め「馬格があって、馬体の張りがすごくいい」と驚いていた9歳馬はパワフルで、現役バリバリだった。

 24日に笠松競馬場で行われた地方全国交流「17回笠松グランプリ」(1400メートル、SPⅠ)。前走・名古屋・ゴールド争覇を勝った高知のダノングッド(牡9歳、別府真司厩舎)が、23歳・多田羅誠也騎手とのコンビで制覇。3番手から豪快な差し切り勝ちを決めたのだ。高知勢は笠松重賞では、やはり怖い存在だった。

 ファンが見守るゴール前では年齢を感じさせない力強い動きで、「俺には勝てないよ」とばかりに4歳勢2頭をバッサリ。若々しくて元気一番の走りを見せてくれた。来場者はもちろん、ネット観戦のオールドファンたちも、「中高年の星」といえる9歳馬の力強い走りっぷりに「元気」をもらったことだろう。

 笠松グランプリは秋の看板レース。前身の「全日本サラブレッドカップ」の第1回(1988年)では、アンカツさん騎乗のフェートノーザンがイナリワンに圧勝した伝説のレース。不祥事による開催自粛のため、4月のオグリキャップ記念が中止になり、今年一番の注目レースになった。遠征馬は5頭。JRA勢抜きでの1着賞金1000万円は魅力で、各地のスプリント王者など豪華メンバーがそろった。笠松から5頭、名古屋から2頭が出走したが、東海勢には厳しいレースになった。

多田羅騎手騎乗のダノングッドが豪快に差し切り、1着でゴール。笠松グランプリを制覇した

 ■森泰斗騎手騎乗の4歳馬コパノフィーリングを差し切った

 レースは、道営スプリントなど重賞3勝の北海道・アザワク(牝4歳)=桑村真明騎手=が外枠からインに切れ込んで先行。習志野きらっとスプリント、兵庫ゴールドC勝ちの船橋・コパノフィーリング(牝4歳)には全国リーディング・森泰斗騎手が乗り、2番手をキープ。3~4コーナーでアザワクをかわして先頭に躍り出た。

 最後の直線は3頭の勝負。1番人気のコパノフィーリングと、差し返してきたアザワクが競り合うところ、大外を伸びてきた2番人気のダノングッドが前の2頭をあっさり抜き去り、2馬身差でゴール。タイム1分27秒2(やや重)。若武者・多田羅騎手は完璧なレース運びで重賞Vをゲットした。園田のコウエイアンカ(セン馬6歳)は追い込んだが4着どまり。笠松勢は、2012年にエーシンクールディがラブミーチャンとの頂上決戦を制し、連覇を飾ったのを最後に優勝から遠ざかっている。

 2着のコパノフィーリングは4コーナーで先頭に立った。森騎手も勝利を意識しただろうが、快速馬アザワクを追って脚を使わされ、最後はダノングッドの豪脚に屈した。冠名・コパノで、オーナーはDr.コパさん。9年前には所有馬のラブミーチャンで笠松グランプリ2着だったが、またしても勝利に届かなかった。
 
 笠松勢は8番人気のタイセイサクセサー(牡4歳、後藤佑耶厩舎)=岡部誠騎手=が5着に食い込こんだのが最高。東海ダービー馬の名古屋・トミケンシャイリ(牡3歳)は6着に終わった。

ダノングッドで笠松グランプリを制覇した多田羅騎手と喜びの関係者

 ■多田羅騎手「再開した笠松競馬が少しずつ盛り上がっていければ」
 
 多田羅騎手は大阪府高槻市出身。デビュー3年目で、高知リーディング8位の成長株。笠松参戦は初めてと思っていたら、2年前のヤングジョッキーズシリーズ・笠松ラウンドで騎乗していた。3着、7着だったが、コース傾向はある程度、頭に入っていたようだ。

 優勝ジョッキーの家族らも見守る中、大いに盛り上がった表彰式。多田羅騎手は「ゴールド争覇と同じようにいい位置を取れました。前に行った方がいい競馬しますね。これだけのメンバーを相手に重賞を連勝でき、すごくうれしい。自分のペースで、手応え良く進めた。直線を向いたら、しっかり走ってくれる馬なので自信を持って乗った。9歳と思えないくらいすごくパワフル。いつも元気に走ってくれるので、これからも一緒に頑張っていきたいです」と喜びをかみしめた。

 ファンへのメッセージでは「再開できた笠松競馬が、こういう形で少しずつ盛り上がっていければいいです。ダノングッドと高知競馬、そして笠松競馬を応援していただければいいなと思います」と立派なコメント。新生・笠松を力づけてくれた。ファンから「タラちゃん(愛称)、おめでとう、また来てね」と声援も飛び、大きな拍手が送られた。髪形はイメチェンしたそうで、花束を手にスマイル全開。装鞍所に戻るため車に乗り込むと「あれ、おかんですよ」と、別府調教師と共に手を振って大喜び。応援に駆け付けた母親らの前で晴れ姿を見せられ、最高の親孝行になった。

多田羅騎手に花束を渡し、「若いのにすごいですね」と活躍をたたえるアンカツさん

 ■アンカツさん登場、多田羅騎手に花束「若いのにすごいね」
 
 表彰式にはプレゼンターとしてアンカツさんも登場し、詰め掛けたファンを喜ばせた。多田羅騎手に花束を贈り、「いい位置で競馬してて、4コーナーを回って勝つなあと。しっかりと落ち着いた騎乗で、若いのにすごいですね。これからも、もっと頑張ってください。別府先生、おめでとうございます」と祝福。アンカツさんの優勝ジョッキーへのメッセージはこれまでにないサービスぶり。笠松で27年間も過ごした名手の里・永遠のヒーロー。やはり自分が育った競馬場の復活には熱い思いがあるように感じられた。

 WEB予想会にも出演したアンカツさん。笠松グランプリの印は◎コパノフィーリング、○アザワク、▲ダノングッドで、3連複(910円)なら1点で的中していた。中央移籍後のGⅠで22勝。レースでは、他の馬との力関係などは特に意識しなかったそうだ。「自分と馬との関係だけでいい。(レース運びは)ゲートを出た瞬間に決めた方が、いい結果になった」と、若手騎手には騎乗のヒントにもなる名言。オグリキャップなど騎乗した名馬との思い出も語り、「ライデンリーダーは怖い馬だった。調教でみんな落とされちゃうから」などと「ぶっちゃけトーク」でファンを楽しませた。

 ■別府真司調教師「パワーの源は乳酸菌」

 ダノングッドを管理する別府真司調教師。笠松グランプリは2年前にケイマで制して以来2勝目となった。愛馬たちの笠松コースとの相性は抜群で「速い2頭の後ろからうまく乗ってくれた。直線を向いたら、それなりの脚があるんでね。9歳でも元気いっぱいで、まだまだ頑張ってくれると思います」とたたえた。

 高齢になってもすごく若々しいダノングッド。優勝馬の口取りの撮影に向かう際には、派手なアクションで厩務員さんを手こずらせるなど、9歳馬とは思えないやんちゃぶりを見せた。パワーの源については「(競走馬は)中が駄目になると、毛づやも駄目になるんでね。やっぱり内臓を大事にしてやることですね。乳酸菌などを必ず与えています」と愛馬の体調管理に力を注いでいる。来年は10歳になるが「頑張ってほしい。次走は佐賀の1300メートル戦(1月10日・ゴールドスプリント)に挑戦したい」と意欲。

 重賞を連勝したんだから、来年も現役続行は当然か。テレビ番組「逆転人生」でも注目を浴び、超V字回復を果たした高知競馬。遠征にも強い「中高年の星」ダノングッドの活躍は地方競馬全体を盛り上げてくれる。

岐阜工業高校の吹奏楽部が高らかに笠松グランプリのファンファーレを生演奏した

 ■岐阜工業高校の吹奏楽部が高らかに生ファンファーレ

 笠松グランプリの発走時には、競馬場近くにある岐阜工業高校の吹奏楽部によるファンファーレの生演奏があった。一昨年は名鉄ブラスバンド部が披露したが、コロナ禍のため活動休止中。岐阜工高は、昨年笠松で無観客で開催された西日本ダービーでも演奏を披露(事前撮影、清流ビジョンで放映)。人気のウマ娘漫画「シンデレラグレイ」には、岐阜工高をモデルにした「カサマツトレセン学園」も登場。競馬場つながりのコラボ企画のようで、タイムリーな演奏になった。

 レース前には、ゴール板近くにあるキッズルーム内が「にぎやかだなあ」と思ってのぞいてみると、楽器を手にした部員たちが準備万端。ウイナーズサークル内に移動すると、晩秋の曇り空の下、精鋭11人が並び、笠松グランプリのレース開始を告げるファンファーレを生演奏。心地良い高らかな響きでビッグレース開催を盛り上げた。場内はもちろん、ネット越しのファンにも12頭のゲートインを力強く告げた。

 地方競馬での生ファンファーレは、ナイターで行われる大井競馬がよく知られているが、岐阜工高の演奏も素晴らしかった。「気持ち良かったです。うまく演奏できました」と部長さん。地域の若い力も借りて、笠松競馬場は活気を取り戻しつつある。

祝日開催日には畜産フェアもあり、大にぎわい。来場者に「飛騨牛カレー」などがプレゼントされた

 ■開門時に大勢のファン、畜産フェアにぎわう
 
 年内は入場無料の笠松競馬場。久しぶりの祝日開催となった23日には、県馬事畜産振興協議会の協賛による「畜産フェア」が開かれ、若者や家族連れも大勢入場してにぎわった。開門の午前10時には正門前にファンの長い行列。「飛騨牛カレー」のプレゼントは先着400人で、お目当てのファンも多く10分余りでなくなった。入場者は久々の2000人超え。オグリキャップ像前では、スマホなどで記念写真を撮影する若者らの姿が目立った。畜産物プレゼントの応募も受け付けられ、当選者に飛騨ギフトセットなどが自宅に届けられる。

 レースが始まるとラチ沿いにも若いファンらが並び、スタンドからは「差せー」と馬券おやじの熱い声援も聞こえてきた。かつての笠松らしい「日常」が戻ったようで、何となくホッとした気分。笠松グランプリ当日の馬券売り上げは約5億5000万円でよく売れた。

 ■笠松グランプリ開催で「再生・笠松」認められた
 
 不祥事後のレース再開から2カ月半。笠松グランプリの開催は「公正競馬の徹底、クリーン度100%」を全国アピールする絶好の機会になった。騎手・調教師、関係者たちの競馬場刷新への熱い思いは、応援してくれるファンにも届いたことだろう。グリーンチャンネルの番組キャスターら「おなじみの顔」にも多く来場していただき、笠松グランプリの熱戦とともに、ようやく「再生・笠松」が認められた思いがした。不祥事で揺れ続けた競馬場だが、かつての熱気と明るさが戻ってきた。