整形外科医 今泉佳宣氏

関節硬く、バランス保てず 外遊び減り、運動器の働き低下

 以前、ロコモティブシンドロームという言葉を紹介しました。ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)とは、加齢とともに骨や関節などの運動器の働きが衰え、立つ、歩くといった動作がやりにくくなり、転倒しやすくなった状態をいいます。したがってロコモは、高齢者における運動器の問題と考えがちです。

 しかし近年、子どもにも運動器の働きが低下している状態があることが分かってきました。この状態を「子どものロコモティブシンドローム(通称子どもロコモ)」と呼んでいます。今回は子どもロコモについて紹介します。

 実際に、どのような運動器の働きの低下が問題なのでしょうか。現在、二つの問題が指摘されています。一つは関節が硬いことです。学校体育の跳び箱で手をついたときに、両手首を骨折したという報告があります。これは跳び箱に手をついたときに、手首の関節が硬く十分に反り返らないために、骨折を生じたと考えられます。

 そのほか子どもの関節が硬い事例として、両手でバンザイをしたときに腕が耳につかない、かかとを床につけた状態でしゃがみ込むと体が後ろに倒れる、体を前屈すると手が床につかないことが挙げられます。

 もう一つの問題は体のバランスを保つ機能の低下です。具体的には、片脚立ちで5秒以上立つことのできない子どもがいることが報告されています。本来、子どもは大人よりも関節が軟らかく、体のバランスを保つ機能が高くて転倒しにくいと考えられていたため、このような報告に私たち整形外科医も衝撃を受けました。

 なぜこのようなことが起きているのでしょうか。一つは生活習慣の変化です。昔の子どもたちがよく外で遊んでいたのとは対照的に、現代の子どもたちは家に閉じこもってスマートフォンやゲーム遊びをして過ごすことが多くなっています。外遊びなどで体を動かす機会が少なければ、運動器の機能低下が生じることは容易に想像できると思います。

 運動をしない子どもがいる一方で、低年齢の頃から特定のスポーツを行う子どもがいることも、現代社会の特徴です。実は小さい頃から特定のスポーツだけをやってきた子どもにも、運動器機能の低下が見られることがあります。一例を挙げると、しゃがみ込みができない小学生の中に、ハイレベルでサッカーをやっている子がいました。小さい頃に特定のスポーツだけをすると、そのスポーツに必要な筋肉しか使わないことになり、そのことでも運動器機能が低下する可能性が報告されています。

 子どもロコモの対策として、学校現場では運動器検診が行われるようになりました。次回は学校での運動器検診についてお話しします。

(朝日大学保健医療学部教授)