小児科医 福富悌氏

 今年は5月下旬から急激に気温が上昇し、暑い季節がやってきました。気温が高い夏は熱中症が話題になりますが、もう一つ注意が必要な病気に食中毒があります。食中毒はさまざまな原因で起こりますが、暑い季節は大腸菌などの細菌性の食中毒が多くなります。

 本来大腸菌は、私たち人間にとって必要な細菌です。大腸菌は腸の中でビタミンを合成するだけでなく、私たちは野菜に多く含まれる不溶性食物繊維のセルロースを分解することができないため、大腸菌の存在が必要になってきます。

 そのため私たち人間は昔から、大腸菌とともに生活していたのですが、1945年ごろから乳幼児の下痢の重症例の中に、特殊な大腸菌が見つかるようになりました。これらの大腸菌は病原性大腸菌または下痢原性大腸菌と呼ばれ、現在六つの種類に分けられています。

 この中の腸管出血性大腸菌に、よく耳にするO157があります。このO157はベロ毒素を産生するため、合併症を起こし重症化することがあります。

 O157以外の病原性大腸菌でもベロ毒素を産生する場合があるため、O157でなくても油断はできません。特にかかりやすい年齢はありませんが、乳幼児と高齢者が感染すると重症化しやすいため注意しましょう。

 O157の感染は、細菌が付着した飲食物を口から摂取することによって起こります。O157は牛や豚などの家畜の腸をすみかにしている細菌のため、家畜の糞尿(ふんにょう)から細菌がうつり食べ物を汚染します。そのため生肉だけでなく、十分に加熱していないハンバーグやステーキ、生野菜などの食べ物には注意しましょう。

 季節的には、気温が高い初夏から秋にかけて多発します。この時季は食中毒菌が増えるのに適した季節であり、また暑さによる体力の低下なども重なることで、O157感染症が発症しやすくなります。また、最近の調査では、ハエがO157の感染に関わっていることが報告されています。そのため食べ物のある場所では、ハエにも注意しましょう。

 暑い時季は冷たい飲み物を飲む機会が多く、胃腸に不調を来しやすくなります。下痢や嘔吐(おうと)以外に発熱や血便があるときは、食中毒の可能性もあるため医療機関を受診して検査を受けましょう。

(福富医院院長、岐阜市安食)