岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 子供の頃、誰もが勉強の中で、得意な科目と苦手な科目があったと思います。そして高校ぐらいになると、「数学が好きだから理科系のクラスに入る」などと、自分の得手不得手から進路を考えるようになります。では、数学が苦手で成績が悪いから、「限局性学習障害」(Specific Learning Disorder=SLD)なのでしょうか。それは全く違います。

 例えば、スポーツで考えてみましょう。サッカーが得意な人もいれば、野球の方がうまい人もいる。あるいは身体的な障害はなく普通に日常生活を送れているのに、運動全般が不得意な場合もある。でも、子供たち全員がJリーガーレベルにならないと問題かというと、そうじゃない。さまざまなレベルがあっていいわけです。勉強も同じです。つまり、「発達障害」の特集の最初に述べましたように、"みんな違って、みんないい"のです。では、SLDとは一体どんな状態をいうのでしょうか。

 SLDとは、以前は「学習障害(LD)」と言われていたもので、知的能力(知能)には大きな問題がなく、目も見えて、耳も聞こえているのに、「読む(読字)」「書く(書字)」「計算する(算数)」といった学習技能のいずれか一つ以上が、患児の年齢や知能から期待されるよりも顕著に低下しているために、日常生活のさまざまな活動に著しい障害を呈する状態です。したがって本症は学齢期になって初めて診断されます。では学習技能の障害について具体的に述べます。

 まず、読字についてです。読字には、正確さ、速度と流ちょうさ、読解力と三つの要素があります。患児はそもそも発音をすることに困難さがあり、ゆっくりとためらいがちに音読する。そのため、誤った発音をしたり、文章の文字や単語を抜かしたり、言葉を当てずっぽうに言うため、非常に不的確で、読んでいる内容やそのより深い意味を理解することが困難となります。

 書字についても、綴字(ていじ)の正確さ、文法と句読点の正確さ、そして書字表出の明確さや構成力といった三つの点に問題があります。それらの障害によって、誤った文字を書く、句読点を間違える、単語の中に間違った文字が混じる(つづりが不正確)、文法的に誤りの多い文章を書く、などの症状が認められます。

 最後に、算数の障害です。患児は、数字の概念や計算方法を習得する、数学的事実の記憶が苦手なために、数字の大小といった数の感覚が理解できず、1桁の足し算を行うのにいつまでも指を折って数えたり、算術計算の途中で混乱してしまうことがあります。このような障害を、以前は「失算症」と呼んでいました。また、数学的推論にも困難さがあり、数学的概念や数学的事実、あるいは数学的方法を適切に使用して、問題を解くことができません。

 最も大切なのは、このような症状は、進学・就職などその先の人生の重要な選択にも影響を与えるので、小児期からの早急な対応が重要だということです。次回は「発達障害の治療」についてお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)