脳神経外科医 吉村紳一氏

 こんにちは、吉村です。この欄では「脳卒中予防に関する最新情報」を紹介しています。皆さん、一緒に勉強しましょう! 今回も「開頭手術」についてお話しします。

 脳血管の手術の場合、他部位の手術と決定的に違うことがあります。それは「太い血管が重要とは限らない」ことです。細い血管であっても、手足を動かす部分に血液を送っている場合には、詰まるとまひが出てしまうのです。ですから脳血管手術の際には、術者は1本の血管も傷つけないよう、極めて慎重に操作を行います。しかし、手術の操作で血管を触ったり、一時的に止めたり、つなぎ替えたりすることもあります。では、そういった血管に血液が流れているかどうかは、どのように確認するのでしょうか?

 動脈はドクドクと拍動していますので、それだけでもある程度は察しがつきそうなものです。しかし拍動を見るだけでは不確実なのです。「流れていると思っていたのに詰まっていた!」ということが往々にしてあるのです。そこで私たちは『蛍光色素を使った術中血管撮影』というものを行っています。

 インドシアニングリーンという蛍光色素を静脈注射して、手術用顕微鏡で特殊なフィルターを用いて観察すると、血液の流れている部分が白く光るのです=写真=。矢印の部分では、バイパス手術を行った直後に、つないだ血管の中を血液が流れていることが確認されます。

 従来は「術者の勘」に頼っていたことが、手術場の誰もが客観的、かつ視覚的に確認できるようになりました。脳の手術では、こういった細い血管の流れが手術の成否を分けます。安全性を高めるために、手術に使用される機器も進化しているのです。

(兵庫医科大学脳神経外科主任教授、大垣徳洲会病院外来担当)