整形外科医 今泉佳宣氏

 前回は関節の感染症についてお話ししました。今回は脊椎の感染症についてお話しします。

 かつての日本では、国民病とも言われるぐらい肺結核患者が多くいました。結核菌は肺以外に脊椎に病巣を形成することがあり、結核性の脊椎感染症は脊椎カリエスと呼ばれます。現在では結核治療の進歩とともに、肺結核や脊椎カリエスは減少しました。しかし脊椎カリエスに代わり、結核菌ではない一般細菌による脊椎感染症が問題となっています。そのような感染症を化膿(かのう)性脊椎炎と呼びます。

 化膿性脊椎炎の初発症状は痛みです。頸椎(けいつい)であれば頸部や肩甲部の痛みを、胸椎や腰椎であれば背部や腰部の痛みがあります。進行すると膿瘍(うみ)を形成します。膿瘍が脊柱管内に広がると、脊髄を圧迫して手足のまひを生じることがあります。

 化膿性脊椎炎は、免疫機能が低下している人に発症します。すなわち高齢者、糖尿病や肝硬変、手術後、免疫抑制剤を使用している人は注意が必要です。そのほかにお酒をたくさん飲む人や必要な栄養が摂取できていない人、仕事などが忙しくて過労状態にある人も要注意です。

 原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌が多くを占めます。初期の段階では、単純X線写真を撮影しても異常を認めず、早期診断にはMRI(磁気共鳴画像装置)検査が有用です。そして感染症であるため、血液検査も有用です。なかでも血液検査で血沈(赤血球沈降速度)、白血球数およびCRP(C反応性タンパク)が正常値よりも高い場合は、本疾患を強く疑います。確定診断には、病巣の一部を採取して原因となった細菌を調べますが、細菌が検出されないこともあります。

 治療では、抗生物質による薬物療法および脊椎の固定が重要です。薬物療法では起炎菌(原因となっている細菌)に感受性のある抗生物質を4週間から6週間投与します。固定については体幹ギプスやコルセットによる外固定を行いますが、必ずしも強固な固定が得られないことから、最近はスクリューを使った内固定が行われることもあります。そのような薬物療法や固定にもかかわらず脊椎の破壊が進行し、それに伴って脊髄まひを生じた場合には、直接病巣を掻爬(そうは)して骨盤の骨を移植することがあります。

(朝日大学保健医療学部教授)