消化器内科医 加藤則廣氏

 潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜に潰瘍性病変を生じて粘液を混じた血便や腹痛、発熱を来す疾患です。治癒は難しく再燃と寛解を繰り返します。若年者層に発症のピークがあり、人生において長い期間の治療が必要です。潰瘍性大腸炎の成因はいまだ不明ですが、発症機序は大腸粘膜における免疫系の障害であることが明らかにされています。以前は欧米で多くみられ日本ではまれな疾患でしたが、近年は日本で急増していて毎年1万人以上の新規の患者さんが発症しています。現在は推定で20万人を超え、米国に次いで世界第二の患者数になっています。しかし、ここ数年で多くの新しい薬剤が投与できるようになり治療法が格段に進歩しています。

 診断は大腸内視鏡検査で行いますが、病変の広がりによって直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型などに分類されます=図=。また重症度は自覚症状によって軽症、中等症、重症に分類されます=表=。軽症と中等症で全体の約80%を占め多くは内科的治療の対象ですが、重症では全大腸の外科的切除が必要になることもあります。

 最近は多くの新しい治療薬が開発されて飛躍的な改善が得られるようになっています。自覚症状の改善だけでなく、寛解状態を長期に維持できる大腸の粘膜治癒を治療目標にすることができるようになってきました。また新しい検査法として便中カルプロテクチンや血液検査のロイシンリッチα2グリコプロテインなどの測定によって頻回に大腸内視鏡検査をしなくても寛解状態の把握が可能となってきました。

 潰瘍性大腸炎の治療薬にはステロイド剤、メサラジン製剤、免疫調整薬や免疫抑制薬、生物学的製剤などがあり、組み合わせて治療を行います。ステロイド剤は寛解導入に用いますが、維持療法としての長期投与は行いません。また肝臓で早く代謝されて全身への影響の少ないブデゾニドを肛門から注入する新しい薬剤が処方できるようになり、直腸炎型などに極めて有効です。メサラジン製剤は以前より基本薬として処方されています。最近は内服した薬剤が大腸に到達して初めて放出される剤型が開発されて、副作用が少なく投与量が多くできるようになり有効性が増しています。免疫抑制薬のタクロリムスは中等症や重症に対して投与ができる極めて有用な新しい薬剤です。

 一方、生物学的製剤とは、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などのバイオテクノロジーを用いて、病気を発生させる特定の物質を標的とした治療のために製造された薬剤です。インフリキシマブなどの抗TNFα抗体製剤などが10年ほど前から投与できるようになった極めて有用な薬剤ですが、最近は複数の新たな生物学的製剤が開発されて一層の飛躍的な治療効果を上げています。しかし、現在のところ生物学的製剤には中止や休薬の基準がなく今後の研究成果が待たれます。

 その他に血液から白血球やリンパ球を取り除くアフェレーシス治療も行われています。さらに正常人の糞(ふん)便を患者さんの大腸内に移植して腸内細菌叢(そう)を改善させる糞便移植法も研究が進められています。

(長良医療センター消化器内科部長)