循環器内科医 上野勝己氏

 日本国内の冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の罹患(りかん)率は高く、主な死因の一つです。心筋は冠動脈の血流によって栄養されていますが、何らかの原因でこの血流が低下して心筋への酸素供給が不十分(虚血)となり、胸部の絞扼(こうやく)感(締め付けられる感じ)や痛みが出現します。これを虚血性心疾患といいます。

 近年その診断と治療は飛躍的に進歩しました。しかし心臓は体の中心にある重要な臓器で生命の中心です。それだけに心臓の精密検査や治療には危険が伴います。これまで長くカテーテル検査が最終診断として用いられてきましたが、検査そのものでも死亡するリスクがゼロではないため侵襲的検査と呼ばれます。そして覚悟して検査を受けても、例えば米国の統計ではカテーテル検査を受けた患者の55%で有意な狭窄(きょうさく)がなかったとのことです。

 この検査をなんとか減らせないか。そういった願いから、さまざまな非侵襲的な検査が開発されてきました。中でも、造影剤を手の静脈から注入するだけで冠動脈を詳しく調べることのできる冠動脈CT検査の登場は画期的でした。30分余りの検査時間で、結果は約1時間後に分かります。

 しかし簡便なだけに新しい問題が生まれました。冠動脈の閉塞(へいそく)病変が、正常血管に対して何%閉塞しているのかを狭窄度といいます。狭窄度50%以上の閉塞病変が問題となるのですが、その病変がどの程度血流を低下させているのか(これを心筋虚血の程度といいます)は冠動脈CTからだけでは分かりません。

 ①冠動脈CTでこういった問題となる病変が見つかると、②負荷心筋シンチというアイソトープ検査をし、結局は③侵襲的なカテーテル検査を行い、④圧力測定ワイヤを冠動脈に入れて病変による心筋虚血の程度を評価する(心筋血流予備量比FFR測定といい、0・80未満が有意な虚血と判断されます)というさらに侵襲的な(痛くて危険な)検査を行うという流れができてしまいました。負担が少ないので、症状もないのに心配だからと冠動脈CT検査を受けて、中途半端な狭窄が見つかるとさらに侵襲的な検査を受けなくてはならなくなります。

 しかし米国ハートフロー社は、数値流体力学を応用して、冠動脈CTの画像からスーパーコンピューターを使ってこのFFRを推定する方法を開発しました。これをFFR-CTと呼びます。日本からハートフロー社のデータセンターに送ると5時間程度で結果が戻ってきます。

 このFFR-CTの、日本での臨床試験の結果をみると、55・8%の患者で前述の②から④の検査が取りやめになっていました。②から④をしなくていいというのは大変なメリットです。しかもFFR-CTで問題なしと判定された患者の10年後の予後は良好でした。通常の冠動脈CTでは石灰化病変は苦手ですが、このFFR-CTではかなりの精度で評価できます。

 問題点としては、冠動脈内にステントが入っている場合にはまだ認められていないことや、冠動脈CTの画像にきれいな画質が求められること、そしてレベルの高い放射線科専門医のいる施設でしか認められておらず検査できる施設が少ない点です。狭心症が疑われる患者は、主治医と相談してみてください。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)