小児科医 福富悌氏

 子どもと話していると、時々吃(きつ)音が気になることがあります。このような子どもの多くは流ちょうに話せないだけで、コミュニケーションが取れないことはなく、行動や動作において不自然さはなく、注意不足によるけがが多いわけでもありません。また、読み書きや計算ができないこともありません。その他に明らかな身体的な疾患、機能障害も見られません。

 吃音の原因は大きく発達性、神経原性、心因性、薬剤性に分けられますが、子どもの吃音の多くは発達性吃音と考えられています。これは幼児期になり、ある程度言葉が話せるようになっても、長い単語や文の発話などでは、言語的負荷が高くなります。このような発話欲求に比べて言語能力や遂行機能の発達が不十分なことが関与しているためです。さらに興奮やストレスのある状況で吃音の症状が出やすくなります。すなわち幼児においては発話へのDemand(要求)と幼児のCapacity(能力)のバランスが悪いため、吃音が生じるとされています。

 要求や能力は発話運動面、言語面、認知面、情緒面に分けられます。そのため幼児期の吃音の治療においては、子どものこれらの四つの能力に合わせた言語環境を整えることが行われています。具体的には本人に合ったゆっくりとした会話、易しい言葉の質問や会話、穏やかな雰囲気や会話です。さらにこれを発展させて子どもと会話する時間の中で、静かなゲームや本読みなどを取り入れることもあります。このような対応で、吃音は子どもの約5~11%に発生するものの、4~5歳までに90%は治るとされています。

 吃音は、歴史的にはヒポクラテスが「吃音は舌が渇き過ぎるのが原因である」と言っているように、紀元前から存在が認められています。さらに吃音は歴史的あるいは地理的にも発生率には差はなく1%程度とされています。そのため小学校入学後も吃音が改善しない場合は、専門的な訓練や治療を受けることもできますので、かかりつけの小児科や耳鼻科の医師に相談してみましょう。

(福富医院院長、岐阜市安食)