整形外科医 今泉佳宣氏

 本日は腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術についてのお話です。

 整形外科における内視鏡手術は、古くから膝関節や肩関節で行われてきました。それらに比べて脊椎における内視鏡手術の歴史は浅く、1999年以降に普及し始めました。

 脊椎の内視鏡手術の中でも腰椎椎間板ヘルニアに対する内視鏡手術は、現在多く行われている脊椎内視鏡手術の一つです。従来の手術では腰を約5センチ切開していたのですが、内視鏡手術では約2・5センチと半分の切開で行えるようになりました。そのため従来よりも手術後の痛みが少なくなり、手術後1週間程度での退院が可能です。

 実際の手術は、皮膚を切開した後に腰の筋肉の線維と線維の間に直径18ミリの金属製の筒を入れてそこに内視鏡を取り付け、モニターを見ながら手術を行います。椎弓(ついきゅう)と呼ばれる腰椎の後ろの部分を一部削り、椎弓と椎弓との間にある黄色靭帯(おうしょくじんたい)を取り除くことで椎間板ヘルニアに圧迫されている神経根が現れます。その神経根をよけると神経根直下に椎間板ヘルニアを認めます。その椎間板ヘルニアを摘出することで、神経根への圧迫は取り除かれて神経痛が楽になります。手術後は翌日からコルセットを装着して歩くことを許可します。

 内視鏡手術にはいくつかの問題点もあります。小さな皮膚切開で行うので、手術器具を動かせる範囲が限定されてしまい手術の難易度が高くなります。また、内視鏡で映し出された画像を液晶モニターで見ながら手術を行うのですが、モニターに映し出された画像は2次元であるため奥行きを感じる感覚をつかみにくく神経を損傷する危険性があります。また、神経を損傷しなくとも神経を包む膜である硬膜を損傷した場合の修復がしにくい、あるいは神経の周囲にある微小血管からの出血を制御しにくいという問題点があります。また、全ての椎間板ヘルニアに対応できる手術というわけではなく、椎間板ヘルニアの形態によっては従来法を選択しなければならない場合もあります。

 これらの問題点があるため、従来の手術方法よりも難易度が高く熟練を要する手術ではありますが、今後手術器械や手術手技が改良されることでさらに普及する手術になると考えられます。

(朝日大学保健医療学部教授)