眼科医 岩瀬愛子氏

 9月は各事業所の「職場の健康診断実施強化月間」とされています。今年は、厚生労働省・労働基準局からのお知らせに「眼科検診等の実施の推進」という項目が増えているのを、事業所の皆さんはご存じでしょうか? また、国土交通省からも、今年、健康起因事故防止の取り組みの観点から「眼科健診」を勧めるマニュアルが出され、自動車運送事業者にも目の検査の重要性をアピールしています。

 どちらも今、ただちに治療が必要な人の発見だけではなく、そのまま放置すると未来に視野障害や視力低下を引き起こす病気を早期に見つけ、対策を立てることで進行を防ぎ、日常生活や仕事に支障のない目の状態を長く維持することを目的としています。職場健診は今まで「労働安全衛生法」という法律に基づき、視力検査だけをすればいいことになっていました。また、「特定健診」を受ける方の場合は「生活習慣病のための健診」なので、高血圧や糖尿病など内科的な病気から目に異常が出ているかどうかを見るためだけに、眼科検査に回ることになっています。

 つまり、職場健診でも、特定健診でも、視力は良いけれど目に病気がある状態や、生活習慣病はなくても目の病気だけはあるという状態は発見できません。本来、目の病気の発見には、「眼底検査」や「視野検査」が必要なのです。今回のお知らせやマニュアルもこうした点を改善しようとしているのです。

 「フレイル」という言葉があります。「加齢に伴い身体のさまざまな機能が低下することによって、健康障害に陥りやすい状態」をいいます。この考えを目に当てはめた言葉に「アイフレイル」があります。すなわち「年齢に伴って目が衰えてきた上に、さまざまな外的ストレスが加わることによって、目の機能が低下した状態、そのリスクが高い状態」となります。病気を未然に防ぐことができれば、あるいは、早期に発見して治療することで視機能の低下を改善したり遅くしたりすれば、社会参加ができなくなったり、自分のことが自分でできなくなったりすることなく、高齢になっても自立した生活を確保することが可能になると考えられています。

 眼科の検査というと、診療所や病院に保険証を持って行って診てもらうことを連想されるかもしれません。ですが、何の症状もない、健康診断のための目の検査の場合は、保険証は使えません。健康診断は異常がないかどうかを検査するので、通常は健診施設や人間ドック、眼科の「健診メニュー」で自費検査になります。健康診断で精密検査が必要になり眼科を受診する場合は、異常があって検査が必要とされる場合なので、保険が使えます。また異常があって治療が必要となった場合や、症状がある場合は病気の有無を詳しく調べる必要があるので保険が使えます。治療で通院中の方が、診察に眼科を受診する日のことを「定期検診」、あるいは「今日は検診の日」と言うのをよく聞くのは、混同しているのだと思います。

 視野や視力がいずれ落ちてくる目の病気の中で、治療で回復可能なものはあります。しかし緑内障は、進行した視野異常は戻らないのに、両目がかなり進行しないと自覚症状が出ないことが多いので、眼底検査をすることでぜひ早期に発見したい病気です。10月には目の愛護デーもあります。今まで一度も眼底検査をしていない方は、ぜひ受けてください。また、年齢とともに病気のなりやすさは上がりますので、定期的な眼底検査をお勧めします。

(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)