笠松競馬場入りしたオマタセシマシタ。渡辺竜也騎手とのコンビで初勝利を目指して調教に励んでいる(笹野博司調教師提供)

 「初勝利、お待たせしました」となるか、それとも連敗が2桁になるのか。人気お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんが馬主を務めるオマタセシマシタ(牝3歳)が金沢競馬から笠松競馬に移籍した。名門・笹野博司厩舎に所属し、笠松のエース・渡辺竜也騎手の騎乗で、1月26日に笠松デビュー戦を迎える。ファンの注目度は非常に高く「笠松のオマタセちゃん」として人気急上昇中である。

 オマタセシマシタは、これまで門別、金沢で9戦して未勝利。そろそろ「1着ゴール」がほしいところだ。斉藤オーナーは自身のユーチューブチャンネルを更新。動画に電話出演した笹野調教師、渡辺騎手に「笠松でオマタセちゃんの初勝利を期待している」と、やや入れ込み気味でお願い。昨年、笠松の年間最多勝記録をともに更新した「リーディングトレーナー&ジョッキー」の豪華コンビに愛馬を預け、初夢を託した。オマタセシマシタの出走予定日について、競馬組合では「木曜日の第3レースに決まりました」と話題性のある馬の笠松デビューを歓迎。管理する笹野調教師はレース本番に向けて「調教も順調ですよ」と初勝利に向けて好感触だ。

金沢から笠松の笹野博司厩舎に転入したオマタセシマシタ(笹野博司調教師提供)

 ■笠松入り、軽い走りで攻め馬も順調

 オマタセシマシタは父ジャングルポケット(日本ダービー馬)、母ハロウィーンという血統。2022年6月、北海道競馬の門別でデビュー。服部茂史騎手が主戦を務め、8戦して3着が最高だった。11月に金沢へ移籍し、初戦は名手・吉原寛人騎手が騎乗。1番人気だったがスタートで出遅れ、最後にいい脚で追い込んだが4着。その後、クリスマス寒波でレースは降雪中止(12月24、25日)。金沢が冬季休業に入ったため、比較的近い笠松への移籍が決まった。

 大みそか、金沢から笠松競馬場に隣接する薬師寺厩舎に到着。馬の方は入れ込む様子もなく、笹野調教師は「すごく落ち着いた状態で、輸送も無事クリアした」とオマタセシマシタの厩舎入りを歓迎。「餌の食べ具合もいいし、馬場に入る時だけ暴れたりもしますが、元気はいい。調教も順調にこなしていて、軽い走りですね」と高評価。馬体重は前走434キロだったが、輸送でやや減っため、体調管理に努めている。

 笠松競馬場内のコースでは、主戦となる渡辺騎手がオマタセシマシタに騎乗し、攻め馬に連日励んでいる。初めての馬場入りでは、またがった感触について「最初はテンションが高かったので落ち着けるように乗りましたが、(フットワークなど)しっかりしていると思った」と好印象。コースで物見をすることはないが「ただ、競馬場は線路(名鉄)が近いので、電車の音に驚いている感じでしたね」と笠松特有のコース事情を課題に挙げた。

笠松競馬場の3~4コーナー沿いを走る名鉄電車。笠松デビューの競走馬がレースで驚くこともある

 ■迫ってくる名鉄電車に驚いた馬も

 笠松のレース中だからといって、電車が減速することはないが、「競走馬と名鉄電車」といえば、昭和の時代のエピソードを思い出す。先輩から聞いた話で「名古屋から笠松に初参戦し、本命視された人気馬だった。向正面を3コーナーに向かって走っていたが、競馬場の西側を通過し、目の前に迫ってくる電車の姿に驚いて、馬が止まってしまった」とか。名古屋の人気馬の笠松での初出走は、たまに凡走もあるが、初馬場で登場した「大きな動く物体」に戸惑ったようだ。のどかな田園風景が広がるダートコースは西日がきついし、電車の往来が多い。競走馬は音に敏感で、オマタセシマシタは、メンコ(馬の覆面)を2枚重ねにした効果もあって、落ち着きが出てきたという。じっくりと調教をこなして慣れていけば問題ないだろう。

 ■7頭が登録、強敵は1頭か


 オマタセシマシタの笠松デビュー戦。1月26日3Rの3歳4組・1400メートル戦に7頭が出走する。実戦を想定して「炎の一番勝負」として展望してみると。

 上位人気になりそうな有力馬はヤマジュンゲノム(伊藤強一厩舎)。前走800メートル戦を岡部誠騎手の騎乗で2着に粘り込んだが、末脚はやや甘いようだ。1400メートル戦ならオマタセシマシタが差し脚を発揮し、勝つチャンスが十分にあるのでは。JRAから転入2戦目となるスギノケルピー(川嶋弘吉厩舎)は前走5着。同じく元JRA馬のモズハタラキモノ(栗本陽一厩舎)は笠松で前走7着。サツキダンサー(藤田正治厩舎)は岩手からの転入初戦。主戦は関本玲花騎手だったが、笠松では細川智史騎手が騎乗する。

 オマタセシマシタの脚質は差しタイプ。笠松でのコース適性について、笹野調教師は「軽い走りのオマタセちゃんなんで、笠松は軽い馬場で、すごくフィットしている」と手応え。次走で10戦目となるが、このクラスなら馬券圏内はもちろん、掲示板の1番左側(1着)にオマタセシマシタの馬番が点灯するかも。

オマタセシマシタを管理する笹野博司調教師(左)と渡辺竜也騎手。笠松競馬リーディングのコンビで初Vを目指している

 ■地元・船橋移籍には「笠松で2勝」が条件

 斉藤オーナーはテレビ番組「ウイニング競馬」で司会を務め、グループ名でもあるジャングルポケット産駒を購入し、オマタセシマシタの成長を願って動画を配信している。千葉県船橋市出身で「愛馬を地元の船橋競馬場で走らせたい」という夢もある。オマタセシマシタの地方獲得賞金はこれまで31万円。船橋への移籍条件としては、2歳時の昨年なら「50万円獲得」だったが、3歳になって必要額は「100万円」にアップ。ハードルは高くなったが、笠松3歳戦の1着賞金は36万円で「2勝すれば条件クリアは確実」だという。笹野調教師も「馬場も合うので勝てるのでは」とデビュー後の走りに期待を寄せている。

 オマタセシマシタが金沢で走ったのは1400メートル戦の1回だけだったが、管理した加藤和義調教師は「出遅れたスタートとコーナリングに課題はあったが、巻き返した直線の走りは必要な武器。成長していけば、初勝利も遠くない」と、笠松での活躍を願って笹野厩舎にバトンタッチした。

 ■「直線でしっかりと脚をつかってくれる」

 その注目馬について笹野調教師は「レースでは、コーナーで外に逃げたりするところがあり課題。そこをうまく修正すれば、直線でしっかりと脚をつかってくれるので。渡辺騎手と工夫しながら、やっていきたい」と前向きだ。さらに「厩舎も、笠松競馬自体も盛り上がっています。万全を期して勝てるような布陣で臨みたい」と、笠松のエースジョッキーと、馬体のケアの面でも経験豊かな厩務員を起用した。

 渡辺騎手は「調教からしっかりと癖をつかんで、レースに向けて最高の状態で送り出したい。初勝利を頂くため、全力で頑張ります」と意欲を示した。

東海ゴールドカップで激しい先陣争いを繰り広げる各馬。1周目の位置取りが勝敗の鍵を握る

 ■笠松デビュー戦でも1番人気か

 オマタセシマシタは、何かと「お騒がせすること」も多かった笠松に来たことで、より注目されている。金沢戦では初めて1番人気になったが、この調子だと、渡辺騎手の騎乗で笠松デビュー戦も1番人気になるのでは。26日にはメインで重賞「白銀争覇」があるが、ランチタイムに行われる3Rは、ネットなどでも馬券を買いやすく、注目度の高い一戦になりそうだ。

 金沢競馬が雪で中止になったため、船橋移籍のための賞金を稼げず、笠松移籍となった。動画配信を通して、笠松デビュー前から新聞の一般紙にも取り上げられ、初Vの期待が高まっている。一連の不祥事で、笠松所属馬のレベルはダウンしており、オマタセシマシタがあっさりと2勝を飾る可能性は十分にある。

 ■同じ船橋市出身の渡辺騎手が「愛馬初V」をプレゼントか

 そうなれば、すぐに船橋へ移籍可能になり、ちょっぴり複雑な思いになりそうだ。できれば長く笠松に在籍して活躍してほしいし、斉藤オーナーが「船橋で走らせるのが夢」というなら、最初に船橋でデビューしていればとも思える。門別→金沢→笠松へと渡り歩くのは、やはりストーリー性を重視して、動画で話題を提供。愛馬と共に全国の地方競馬を元気づけて盛り上げたいという思いもあるからでは…。

 笠松デビュー戦、斉藤オーナーは仕事のため、来場できないそうだが、「新天地で勝利を重ねてほしい」と願うファンが多く詰め掛けて声援を送ってくれる。金沢では入場者は平常通りだったが、笠松ではどうか。

 少頭数のレースで先陣争いは激しく、1周目の位置取りが鍵を握る。また出遅れなければ2~3番手からの競馬も可能。笠松でのコース適性はありそうなので、トップジョッキーのゴーサインに応えて3コーナーからギアを上げて加速。1着ゴールを目指して、ファンを「アッ」と驚かせるパフォーマンスを見せてくれるかも。

 「笠松でも勝てないのでは」という声もあるが、メンバー的には恵まれた。斉藤オーナーにとって、渡辺騎手は同じ船橋市出身でもあり、「地元の仲間のような存在」で縁を感じるジョッキー。オマタセちゃんの笠松在籍中に、V字の勝負服でオーナー悲願の「愛馬初V」をプレゼントしたい。