「頑張れ、頑張れ」「ハルが来た~」。ファンの大声援に応えて、宮下瞳厩舎の人気馬ハルノート(牡4歳)がデビュー11戦目で待望の初勝利を飾った。吉原寛人騎手の好騎乗もあって最後の直線で差し返す鮮やかなV。ゴール前、ウイナーズサークル一帯では駆け付けた熱狂的な女性ファンらも大盛り上がりとなった。ハルノートは、笠松にも在籍したハルオーブの弟。ライデンリーダーの父ワカオライデン(荒川友司厩舎)のひ孫で、「オグリの里」としても注目している1頭だ。
昨年11月に騎手を引退し調教師に転身、デビュー2カ月の宮下瞳調教師。これまで32戦して3勝、2着3回3着2回でまずは順調な滑り出し。所属馬は現在9頭。夫で元騎手の小山信行さんが厩務員も務め、二人三脚で調教に励みながら愛馬たちを育て上げている。当欄では昨年12月「宮下瞳ファミリー夢を追って」を連載したが、厩舎開業後の愛馬との戦いぶりについてもお伝えしたい。
■コパカツ逃げ切り一番星「良かった、勝ちました」
宮下調教師の初勝利は6戦目、1月13日の最終12Rだった。920メートルのスプリント戦で、今井貴大騎手騎乗の2番人気コパカツ(牡4歳)が大外からダッシュを決めて3馬身差で逃げ切った。オーナーは小林祥晃さんで、騎手時代の兄弟子でもあった宇都英樹厩舎から転入。宮下厩舎の「一番星」に輝いた。
宮下調教師は「ありがとうございました。良かった、勝ちました。強かったですね、終わってみれば」と笑顔がはじけた。宇都調教師も「やっぱり初勝利はホッとするよな」と祝福していたそうだ。
10Rでも今井騎手が宮下厩舎のリュウノドラゴンに騎乗していた。2番人気で2着に敗れたが、出迎えた宮下調教師は「今井さん、ごめんね」のひと言。普通はなかなか調教師の先生の口からは出ない言葉だったので印象的だった。自ら調教に励んで仕上げたが、勝利には結びつかなかったからか。これで今井騎手も意気に感じて、最終レースでの初Vにつなげてくれた。
着順掲示板でコパカツの1着が確定。小笠原羚騎手が「宮下瞳調教師初勝利」のプラカードを持った。なかなか立ち止まってくれず、元気いっぱいのコパカツとの初勝利の口取りは最高だった。宮下調教師は「ありがとう今井さん、ホッとした」と感謝。「一発目が俺で良かった」という今井騎手。初Ⅴは第1号として名前が残るし「一発目は俺が勝ちてえなと思っとったんで」とにっこり。
騎手時代には国内で1382勝も挙げたが、トレーナーとしての初勝利の味は格別で「ありがとうございました。良かった」を連発。宮下先生を囲んで歓喜の輪が広がった。
■「人馬共に無事にゴールし、1勝1勝積み重ねていけたら」
見事な初勝利に「今井さんのおかげで、コパカツが頑張ってくれました」。ゴールの瞬間は「うれしいのと『まずは1勝』と思っていたんでホッとしました」。厩舎を立ち上げ、新たな挑戦で苦労も多い。「調教師は、馬を無事にまず出走させるまでがすごく大変です。レースでも先ほどちょっとアクシデントもあって、気を付けないといけないなと。いろいろ大変だなとしみじみと思いました」。トレーナーとして大きな一歩を踏み出し「人馬共に無事にゴールしてくれることが目標なんですが、それで1勝1勝積み重ねていけたらいいなと思っています」とまずは愛馬が1着ゴールできた安心感と喜びをかみしめていた。
ジョッキー時代の勝利とはまた違ったうれしさも込み上げてきた。厩務員はまだ夫だけ。調教をつけているのは厩舎スタッフでもあるご夫婦で、コパカツの攻め馬にも「私と主人と交代で乗っています」と仕上げに励んできた。
■移籍初戦ハルノートは放馬のアクシデント
この日の7R、宮下厩舎で移籍初戦を迎えたのがハルノート。地方&中央のアイドルホースの一族で、中央未勝利から岩手を経て名古屋入りした。ところが、ハルノートはパドックから本馬場入りで返し馬に出ようとした瞬間、テンションが高く、手綱が切れるほどの勢いで飛び出して放馬してしまった。詰め掛けた女性ファンから悲鳴が上がったが、騎手を振り落としたままコースを周回。かなり走ったため競走除外になった。名古屋デビュー戦はゲートイン前に終わってしまい、遠くから駆け付けたファンらを残念がらせた。
ハルノートにはアオラキの3勝目を笠松で挙げた名古屋の貴公子・加藤聡一騎手が騎乗していたが、人馬ともけがなく無事で良かった。
そんなアクシデントもあったハラハラドキドキのナイター競馬。「ジェットコースター」ような展開で宮下厩舎としても、競馬の怖さと喜びを味わった夜となった。人気が高いハルノートの応援団のファンたちも馬体を心配していたが、「大丈夫です。けがはしていなかったんで」と宮下調教師の言葉もあり、一安心となった。
■大声援が背中を後押し、ハルノート差し返して1着
やはりワカオライデンのひ孫である兄ハルオーブは一昨年、笠松の後藤佑耶厩舎にも所属していた。アオラキとの直接対決では、ラチ沿いをファンで埋め尽くすほど人気を集めた。弟ハルノートは名古屋の馬場入りにも徐々に慣れて2戦目6着、3戦目7着で迎えた4戦目。かきつばた記念のエキストラ騎乗で「Ⅴ請負人」吉原騎手が勝利に導いた。
1500メートル戦でハナを切ったハルノート。3コーナーで後続馬に迫られ、4コーナーでは並ばれていったん後退したが、残り100メートルを切って、吉原騎手のアクションに応えて差し返す根性を見せた。
「いいよいいよ、行け行け~、ハルノート頑張れ」「伸びろ~、やった~」と大声援が背中を後押し。単勝1番人気で応援するファンの夢がついにゴールまで届いた。競馬専門紙も有力視。「競馬東海」は◎に推しており、初めての1番人気に応える一発回答。2、3着には10、7番人気馬が入り、3連単38万超馬券。1番人気が勝ったのに高配当となった。
宮下調教師も吉原騎手を出迎え「ありがとうございました。あ~良かった、うれしい」。遠来の推し馬・ハルノート応援団も、うれし涙を流しながら口取りに加わってスマイル全開。村上オーナーは「先生の所でようやく勝てて良かった。また引き続きお願いします」と歓喜に浸っていた。
■「ひと伸びしてくれた、吉原君マジックですね」
すごい人気馬で、宮下調教師にレースの感想を聞くと「めちゃくちゃ良かったです。ホッとしました。状態が良かったです」。最後の直線は「びっくりしました。いつも止まっちゃうんですけど、きょうはひと伸びしてくれました。ハイッ、吉原君マジックですね。いいレースをしてくれて、オーナーさんにも来ていただいていて良かったです」と喜びに浸った。
ハルノートのファンが多く駆け付け「すごいですね、この馬」と宮下調教師。騎手時代に乗ったことがあるハルオーブの弟でもあるスターホース候補。笠松でも使ってほしいくらいで「機会があったら。(オーナーさんに)聞いておきます」とコパカツで連勝して以来、約1か月ぶりとなる通算3勝目を挙げて晴れやかだった。
愛馬の1着ゴールを見届けた村上オーナーは「中央、岩手で善戦するも勝利には至らず。活路を求めて名古屋へ移籍も初戦逸走。その後も惜敗続きで、思い切って名手にオファー。見事に勝利を飾ってくれた」とネット上でも好騎乗をたたえた。
■ファンも歓喜し大盛り上がり、宮下調教師を祝福
応援団も喜びを爆発させ、ゴール後には「すごいよ、1番人気は『保護者票』かなあと思ったら違った」「これくらいの走りはできる子」「きょうから無双で、連勝といきましょうや」と大盛り上がり。メインのかきつばた記念を控えており「何か特別なイベントですか」と、他の来場者を不思議がらせる異様な熱狂ぶりとなったようだ。
スタンドからは身を乗り出したファンたちが「競馬ブロス(テレビ番組)やツイッター見ました」などと宮下調教師に色紙や馬券などへのサインを求めた。「また頑張ってください。応援しています」。日本一の女性ジョッキーから調教師になっても人気は素晴らしく、宮下ファンたちが勝利を祝福した。
ライブ観戦ならではの独特の空気感を体感しながら、声援を送った熱いファンたち。ジョッキー、調教師、馬主らと共に愛馬を見守り続け、馬券も買ってサポートするファンの応援があってこそ、競馬サークルはより活気づく。宮下厩舎の期待馬であるコパカツやハルノートは、安定した走りを見せて関係者を喜ばせてほしい。
南関東と兵庫、高知といった強豪地区の間に挟まれて奮闘する東海公営。かつての輝きを取り戻して、中央馬とも対等に戦える強いスターホースが出てきてほしいが、現状は厳しい日々が続いている。たとえ勝てなくても、かつてはハルウララ(高知)のような人気馬もいたし、まずはファンの注目度も高いアイドルホースたちを追い掛けていきたい。
宮下調教師は2頭の勝ち馬について「厩舎初勝利、コパカツ応援ありがとうございました。ホッとしました。愛馬たちと頑張っていきますので応援よろしくお願いします」「ハルノート見事1着になりました。オーナーさんには騎手で、調教師になって勝たせていただき本当に感謝しています。ファンの方々の応援のおかげです。ありがとうございます」と自らのⅩ(旧ツイッター)で感謝の思いを伝えた。
■渡辺騎手や望月騎手と共にNARグランプリ表彰式に
女性ジョッキーのレジェンドでもある宮下調教師は「NARグランプリ2025」で通算6回目となる特別賞を受賞した。年度代表馬と4歳以上最優秀牡馬の2冠に輝いたディクテオン(セン馬8歳、大井)の関係者はじめ、最優秀勝率騎手賞の渡辺竜也騎手、最優秀新人騎手賞の望月洵輝騎手と共に表彰式に登壇。記念のトロフィーを手に、栄誉がたたえられた。
「まだ騎手を辞めた実感はあまりないないですが、調教師の仕事を一生懸命頑張らせていただいています」。開業して2カ月、ジョッキー時代との違いは「騎手はレースに騎乗するのが仕事ですが、調教師は馬がレースに行くまでの体調を維持をしないといけないし、出走が終わってもいろいろと馬のことを心配しないといけない。本当にやることが多くて大変です」と会見で語り、愛馬たちとの充実した日々を過ごしている。
■「まずは結果を出して、重賞に参戦できる馬を育てたい」
調教師としての手応えは「良い馬をたくさん預けていただいていますが、なかなか結果を出せていない自分がいるので、まずは結果を出せるように頑張りたいです」。引退会見では「主人が厩務員で、最初は2人でゆっくりとやっていきたい」とも語っていた。
昨年10月には園遊会にも招待され、天皇陛下からも言葉を掛けていただいた。陛下からは「テレビを見て応援していました。これからも頑張ってくださいと。また、騎手を目指しているお子さんのサポートをしてあげてくださいとお言葉を頂きました。すごく光栄に思いましたし、頑張ってきて良かったなと改めて思いました」と天皇陛下からエールをもらったことを明かした。
開業初年度の目標は「まずは人馬とも、けがのないように出走させたいなというのと、重賞に参戦できるような馬を育てていきたいです。兄弟子だった宇都英樹先生の厩舎がすごく好きで、雰囲気も良く成績も出しているので、先生のような厩舎をつくりたいです。楽しく仕事ができる厩舎を目指していきたいです」と意欲を示した。
表彰式後「調教師として強い馬をつくり、またこの舞台に帰ってこられるよう頑張りたい」と熱い思いをX(旧ツイッター)に寄せた。
■騎手時代にハルオーブ騎乗、兄弟で勝利の「春だより」を
名古屋で初勝利を飾ったハルノートの兄ハルオーブ(牡6歳、武井亮厩舎)には、宮下調教師もジョッキーとして笠松で騎乗したことがあった。先行策が得意な宮下騎手の手腕が期待された。結果は5着だったが、アオラキが勝ったレースで「アオハル対決」として注目を浴び、ファンが押し寄せた。
ハルオーブは笠松では3着が最高だったが、岩手に移籍し3勝を挙げてJRAに復帰した。これまで2着7回、3着4回と中央ではあと一歩勝利に届いていないが、1着馬とはそれほど差のないレースを続けている。母はハルダヨリで、ワカオライデンゆかりの血統を継承していく兄弟。徐々に暖かくなって春本番の足音がひたひたと。ハルオーブは中央初勝利、宮下厩舎のハルノート(3月11日に出走登録あり)は中央復帰も目指して2勝目の「春だより」を届けられるといい。
☆ファンの声を募集
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中

「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。









