循環器内科医 上野勝己

 "不健康"な食事を続けることで、2015年の1年間で41万人の米国人が死亡したという報告が今年、米国心臓病学会でなされました。しかも半数は、食生活の改善で防げたとのことです。

 不健康な食事とは、野菜や果物、全粒粉の摂取不足、食塩やトランス脂肪酸の過剰摂取です。さらに今年報告された別の研究でも、2012年の米国での心臓病、2型糖尿病による死亡の半数にあたる32万人が不健康な食生活をしていたとのことでした。これに対してガイドラインでは、動物性脂肪の摂取を減らすこと、加工食肉や菓子類、甘い清涼飲料水の摂取制限を勧めています。

 近年日本でも、30~40代で心筋梗塞や狭心症の患者が増えました。半数近くで耐糖能異常や糖尿病が認められ、動脈硬化による狭心症、心筋梗塞の30~40%、脳血管障害の半数の原因ともいわれています。

 糖尿病は、膵臓(ひぞう)からのインスリンの分泌が相対的に不足し、血液中の糖分が過剰に増える病気です。過剰な糖は体中の血管に傷を与え、目詰まりが始まります。微小の血管が詰まると網膜症、腎症、神経障害を引き起こし、太い動脈では心筋梗塞、狭心症と脳血管障害が起こります。

 1型と2型に分けられ、成人で起こるのは2型糖尿病です。もともと糖尿病になりやすい体質の人が、過度の栄養摂取や運動不足などで体のインスリンが効きにくくなり、大量のインスリンを分泌しても、血糖をコントロールできなくなって発症します(インスリン抵抗性)。

 やがて膵臓は疲弊し、十分なインスリンを分泌できなくなります。生活習慣病の一つで、中年以降に発症するのが一般的です。家族歴があるとなりやすいのですが、日本人はもともと糖尿病になりやすい体質と考えられ、家族歴がなくても安心はできません。

 高血糖状態が長いほど、動脈障害は進行します。糖尿病発病からの期間と心血管病の関係を調べた研究では、発病から10年では0%でしたが、10~20年で22%、20~30年で30%、30年以上では56%で心血管病を発症していました。

 このことから30~40代で心筋梗塞を発病する2型糖尿病患者は、かなり若い時に糖尿病を発病している可能性があります。実際、中学生で2型糖尿病になる例も増えています。40歳以下で発症する若年2型糖尿病の全国調査では、30代人口の1.3%が糖尿病でした。平均28歳で発病し、7割以上がBMI(体格指数)30以上、ほとんどが成人前から高度肥満でした。朝食を食べない、午後10時以降に食事をする、健康への意識が低いなどの傾向がありました。

 診断確定時に4人に1人が網膜症、6人に1人が腎症をすでに合併しており、働き盛りの40代から重症の合併症が顕在化し、仕事に支障を来していました。必ずしも糖尿病の家族歴を持っていませんでした。

 では、どうしたらよいのでしょうか。冒頭に紹介した米国の研究では、食生活の改善が必要としています。昭和30年代ごろと比べ、日本人の総摂取カロリーは10%、炭水化物の摂取量は40%近く減少していますが、それでもメタボや肥満、糖尿病は増えています。注目すべきは脂肪の摂取量が1.6倍になっていて、動物性脂肪の占める割合も25%増加していることです。朝食を抜くことでインスリンの分泌反応が悪くなること、過度の脂肪摂取が腸内の炎症を起こし、増えすぎた脂肪細胞が壊れることで、インスリン抵抗性が引き起こされることも分かってきました。

 それでも日本は、経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国中、最も心血管病の低い国です。その秘密は日本食にあるともいわれています。日本食を中心にした食習慣を再考することが鍵になるかもしれません。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)