2011年5月5日。息子の人生を変えた、まさに運命の日です。当時、息子は小学3年生でした。

 その日の少し前、私のブログに、知らない方からメッセージが届きました。それが、地元で、子供文化将棋教室を主宰されている柴山芳之先生でした。

 ときどき、学校や塾の先生、メディアの方などから、「教室を見学させてほしい」という連絡が来ますが、将棋教室の先生は初めてでしたので、とても驚きました。

 先生は、私のブログを全てご覧になられたそうです。「小さな子たちが楽しく学んでいる姿に感銘を受けたので、教室を見学し、子どもたちへの接し方について教えてほしい」とのことで、5月5日に来られたのです。先生は、「小さな子たちに楽しく学んでもらうには、どのようにすれば良いですか」と、大変熱心に私の話を聞かれました。

 子どもを相手にしている点は同じとはいえ、私は、将棋とは全く関係のない国語や作文の指導者です。そんな私の話を、熱心に聴かれる先生の姿を見て、私は、勉強熱心な素晴らしい先生だなと感じました。

「ぎふしん杯第2回こども将棋岐王戦」の会場で談笑する高田明浩四段(右)と柴山芳之さん=2022年10月2日、岐阜市金町、市文化センター

 その後、先生は、「せっかくの機会だから、息子さんに将棋を教えてあげましょう」と、息子に将棋を教えてくださいました。

 当時、息子は駒の動かし方を知っている程度でした。先生は、将棋盤に王だけを置き、歩3枚だけを持ち駒にして、対局を始めました。ハンディの大きさに驚きましたが、あっという間に角を取られ、すぐに息子が負けました。私たちは、ハトが豆鉄砲を食ったようでした。先生は、「こんなふうにすると良かったね」と優しく解説し、もう1局、指しました。

 今度は、先生が王と歩9枚だけを並べて10枚落ちで対局を始めましたが、それもすぐ息子が負けて終わりました。先生は、「今日の記念に」と、将棋盤と駒を下さり、「もしよかったら、私の教室にも参加してみてください」と笑顔で帰って行かれました。

 もし、この日の先生との出会いがなかったら、息子が将棋をすることはなく、全く違った人生を歩んでいたと思います。今、息子は、大好きな将棋をたくさんの仲間と楽しみ、プロとして、対局はもちろん、普及活動にも生き生きと取り組んでいます。息子の幸せそうな姿を見るたび、本当に、柴山先生との出会いがあって良かったな、息子は幸運だったなと、心から思います。

=生い立ち編おわり= 

(「文聞分」主宰・高田浩史)