冬休みに関西将棋会館を訪れ稲葉陽棋士(右)の指導対局を受けた、小学3年生の頃の高田明浩さん=2012年1月、大阪市

 息子の明浩は、プロ1年目の2021年度を21勝14敗、勝率6割で終えました。加古川青流戦は準決勝で敗退、朝日杯将棋オープン戦は1次予選決勝で敗退と、惜しいところまで勝ち進んだ棋戦もありました。

 そんな中でも、特に惜しかったのは、サントリー将棋オールスター東西対抗戦の予選です。息子は、10月9日に行われた関西予選Bブロックに出場しました。1回戦で池永天志五段(当時)、2回戦で杉本昌隆八段、3回戦で平藤眞吾七段を破り、準決勝で稲葉陽八段と対戦します。

 その様子は、インターネットテレビ「ABEMA」と日本将棋連盟のライブ中継で配信されました。ABEMAでは、生中継で棋士が対局の様子を解説します。どちらが優勢かを示す「評価値」と呼ばれる数値や、次の指し手の予測候補も示されるので、とても分かりやすいです。対局室の様子も中継されるので、臨場感があります。

 他方、日本将棋連盟のライブ中継では、将棋の盤面と共に、指し手が示されます。観戦記者や棋士の解説もあるので、その局面での狙いや考え方がよく分かります。対局の途中から見ても、初手から順に見られるので、指し手の流れやポイントが分かる利点もあります。

 私は手に汗握りながら、その両方を見ていました。息子は、飛車を定位置から動かす「振り飛車」と呼ばれる戦法、その中でも、飛車を左から三間目に移動させて戦う三間飛車を採用し、美濃囲いに組みました。

 三間飛車は、私が最も好きな戦法なので、特に興味を持って、駒組みの方法を見ていました。対する稲葉八段は、飛車を定位置のまま戦う「居飛車」に構え、玉を隅に囲う「穴熊」と呼ばれる堅陣を築きます。

 双方駒組みを終えた後は、息子が果敢に攻めていきました。しかし、稲葉八段はさすがA級棋士(順位戦で最上位のA級に属する棋士)と思わせる指し回しで、息子の攻めをがっちり受け止め、陣形を盛り上げて押さえ込んでいきます。

 息子の評価値はどんどん不利になり、見ているこちらまで胸が苦しくなる状況でした。しかし、終盤に反撃し、あと一歩のところまで粘りを見せてくれました。力の差が出た対局でしたが、見ていてとても面白い熱戦でした。

 ABEMAや日本将棋連盟のライブ中継では、棋士が注文した食事や対局後の棋士のコメントなど、対局内容以外の楽しみもあります。ネット社会になり、将棋の対局を楽しむ手段が増えたことは、ありがたいことだなと感じています。

(「文聞分」主宰・高田浩史)