2023年3月20日掲載

始めよう 広げよう!健康経営

 従業員の健康維持・増進に取り組むことで、企業の生産性や価値の向上、イメージアップにつなげる「健康経営」。岐阜新聞社では、岐阜県や岐阜労働局、岐阜県商工会議所連合会、全国健康保険協会(協会けんぽ)岐阜支部、アクサ生命などと協力し、2016年から「ぎふ健康づくり応援プロジェクト~健康経営のすすめ~」を展開しています。

 3月3日には、同プロジェクトのコンソーシアム会議を開き、県内における健康経営の周知・浸透に向けて意見交換を行いました。今回は、同会議発足時から参加する、東京大学データヘルス研究ユニット特任教授の古井祐司氏に、健康経営推進の意義や国が進める取り組みなどについて聞きました。

東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授 古井 祐司氏

持続可能な企業経営に向けて

健康経営は人的資本経営の一つ

 昨年、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値向上につなげる「人的資本経営」という考え方が、政府の「骨太方針2022」に明記されました。その中で、企業の持続的経営や社会貢献を可能にする要素の一つとして、健康経営が重要視されています。つまり健康経営は、社員の健康管理・健康づくりだけに留まらず、企業が社員という人的資本に投資をして、元気にやりがいをもって働いてもらうことで企業も発展し、持続可能な経営を行うことが大きなテーマとなっており、大企業だけでなく中小企業の間でも推進すべき取り組みへと変化しています。

社員の健康が労働生産性に影響

 持続的経営に向けて、社員への健康投資が必要な理由の1つに、社員の健康状態が労働生産性に大きく影響することが挙げられます。先行研究により、健康状態が良く病気のリスクが低い方に比べて、喫煙や高血圧、高血糖などの高リスクな方は、労働生産性の損失は約3倍。1人につき年間約100万円の違いが示されています。

 現在、世界で使われている労働生産性の損失の測定指標には、病欠や病気休業による機会損失を示す「アブセンティーズム」と、出勤したが体調不良で生産性が低下している状態を示す「プレゼンティーズム」の2つがあります。東京大学では、さらに日本版の評価指標を作成して、無料で公開しています。労働生産性の損失の測定は、経済産業省の健康経営優良法人認定でも問われる項目ですので、ぜひ活用していただきたいと思います。

多様な施策を活用し健康経営の推進を

 これまで国では、健康経営に取り組む企業を評価するため「健康経営銘柄」の選定や「健康経営優良法人」の認定などの取り組みを進めてきました。その結果、現在は全国の地方銀行や信用金庫で、健康経営に取り組む企業に対する金利優遇制度が行われており、ハローワークでは2022年度から、健康経営優良法人の認定を受けている企業がそれをPRできるようになるなど、取り組みは全国的に広がっています。

 さらに2017年からは、社労士や中小企業診断士、保険会社など、日頃から中小企業に寄り添う方を中心に、「健康経営アドバイザー」という資格を所有する人材の育成をスタート。現在、全国で2万人近くの健康経営アドバイザーが、産業医などがいない50人未満の中小企業に対して、行政や保険者などが持つ情報の提供やアドバイスを行っています。

 また、健康保険組合が集めたデータを企業に活用してもらう「データヘルス計画」では、健康診断やレセプトなどのデータを分析し、勤めている職場の健康課題が可視化されたレポートが、今年度から毎年事業主に配布されるようになりました。例えば管理系職場は、運動量が少ないため筋肉量や基礎代謝が低く、サービス業では飲酒量や欠食が多く40代から血糖が高い傾向があります。そこで、宴席では繊維質の多い枝豆から注文するなど、健康課題が把握できると、職場に適した対策が立てやすくなります。

 中小企業は、こうした自治体や保険者、経済団体、民間事業者、健康経営アドバイザーが提供するデータやサービスをうまく活用して健康経営の取り組みを進め、そのノウハウを広く共有してほしいと思います。それによって、健康経営推進の動きが広がり、企業も社会からの評価や必要な支援も受けやすくなるはずです。

※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。


わたしたちは、ぎふ健康づくり応援プロジェクトに参画しています