精神科医 塩入俊樹氏

 依存症の薬物療法は、その目的で大きく二つに分かれます。一つ目は、依存症の原因となった薬物の影響で生じた中毒症状や離脱症状(2021年10月20日付本欄「依存症⑤ 耐性と離脱」参照)に対してのものです。具体的な内容は専門的になり過ぎますので、ここでは述べませんが、確かに一定の効果があります。

 そして二つ目の目的は「薬物をやめられない、止まらない」という依存症の本質的な病態そのものに対する薬物療法です。ただし、前回(22年12月14日付)でも述べましたが、依存症の治療の主体は、あくまで心理療法で、薬物療法は補助的な役割でしかない、ということです。

 現在、わが国で依存症そのものに対する薬物療法として行われているものは「アルコール依存症(アルコール使用障害)」と「ニコチン依存症(たばこ使用障害)」の二つです。海外では、覚醒剤やコカインといった中枢神経興奮薬の依存症治療にさまざまな薬物が試されてきましたが、その効果についてはまだ懐疑的な意見も多いのが現状です。

 まず「アルコール依存症」の薬物療法です。その目的は再飲酒の防止です。ですから、ご本人の意志で服薬していただくことが大前提となります。また、用いられる薬には作用の違いから2種類あります。

 1種類目は昔から使われている「抗酒薬」といわれているもので、アルコールの分解を阻害します。もし、この薬の服用後に間違って少量の飲酒をしてしまうと、下戸の方が飲酒した時のように、吐き気や顔面紅潮、頭痛などの悪酔い、二日酔いの症状が出ます。そのため苦しくて飲酒ができなくなるのです。ですが、この薬には飲酒欲求を抑える作用はありません。朝、家族の前でこの薬を服用することで、一日断酒を誓い、そして家族を安心させるわけです。ちなみに、心臓や肝臓などがとても悪い患者さんや妊婦さんには禁忌ですし、アルコールの少量入った食品や栄養ドリンク剤などでも反応が出ることがあるので避けてください。

 2種類目の薬は、脳に働いて飲酒欲求自体を抑えるもので「飲酒欲求軽減薬」と呼ばれています。服用後に飲酒しても「抗酒剤」のような不快反応は出ず、肝障害があっても使いやすく「抗酒剤」と併用することも可能です。ただし「抗酒剤」同様に、心理治療との併用で断酒維持効果を示す薬ですから、ただ単に服用すれば断酒できるといったものではありません。

 次に「ニコチン依存症」の薬、「禁煙補助薬」です。その目的は、喫煙で得られる満足感を減らし、禁煙治療期間中の離脱症状を軽減することで無理のない禁煙へ導くことです。これも薬理作用から、二つあります。一つは喫煙による満足感を減らす薬で、もう一つは禁煙時に出現する離脱症状(たばこが吸いたい、イライラするなど)に対してニコチンを含んだガムやパッチ(皮膚に貼るシール)でニコチンを体内に補給し、その症状を軽くするものです。治療は主に、呼吸器内科の禁煙外来などで行われます。ぜひ、一度、専門家の診察を受けてみてはいかがでしょうか。

(岐阜大学医学部付属病院教授)