電動の軌道自動自転車に試乗する記者(手前)=美濃加茂市内

 岐阜県内を走るJR東海の在来線。大雨などで列車の運転を見合わせた時、現場に急行する特殊な“自転車”がある。線路の安全点検で使う「軌道自動自転車」だ。古くは足でこぐ文字通りの自転車だったが、現在はガソリンエンジン車が主流。そして、電気モーター車へと移り変わろうとしている。列車の運転再開に向けて陰ながら活躍する縁の下の力持ち。記者とカメラマンも試乗した。

 

 11月中旬、深夜のJR美濃太田駅。最終列車が走り去ると、闇夜に浮かぶ駅構内で鉄道保線員たちの作業が始まった。JR東海は7月から軌道自動自転車の電動車を試験導入。高山線で使い始める前の試し運転が行われ、保線員たちは2人乗りの四輪電動車を手で持ち上げて運び、線路に設置。「ガタンガタン」とレールのつなぎ目で音を響かせながらも、静かに「ウイーン」と走っていった。

 保線員は大雨などで列車の運転を見合わせると、軌道自動自転車を見合わせ区間までトラックで運搬。線路上を走りながら倒木や土砂崩れといった異常がないかを点検し、安全が確認でき次第、運転再開となる。現在はガソリンエンジン車が主流で持ち手にアクセルが付いているが、昔は「自転車のように足でこいだ」と国鉄時代を知るベテラン社員の島林勉さん(62)。それが“自転車”と名の付く理由のようだ。

 そして、動力はガソリンエンジンから電気モーターへ。JR東海が試験導入した電動車は、日産の電気自動車のリチウムイオン電池を再利用してモーターで走る。まずは2台で来年3月まで性能を確認し、ガソリン車との入れ替えを検討。保有するガソリン車207台を、排ガスを出さない電動車に替えると年間約3・4トンの二酸化炭素の排出を抑えられるという。

 メリットは環境負荷の軽減だけではない。実際に乗り比べると音が違う。ガソリン車はエンジンをかけると、「ブロロロ」と耕運機のような音。加速するとエンジン音が大きくなり、細かい振動が伝わる。一方、電動車は電源を入れても音は出ない。「コロコロコロ」と小さな音を立てて加速し、滑らかに進んだ。走行中に防災グッズの手回し発電機のような音がするのは、モーターだからだろうか。

 試し運転を終え、岐阜保線区太田支区長の牧野真大さん(30)は「静かさに驚いている。作業中の意思疎通が図りやすく、安全性や作業効率が高まると思う」と話した。JR東海の在来線で、雨の多い季節を中心に年間400回以上出動するという軌道自動自転車。その舞台裏を知れば、ダイヤが乱れても、心まで乱さずに済むのかもしれない。