循環器内科医 上野勝己氏

 あるお元気な80代の男性が検診で肥満と血糖値の異常を指摘されました。この方は食事療法と毎日のジョギングを始め、1カ月で10キロ減量しましたが、ジョギング中に突然死しました。

 肥満は、ボディーマスインデックス{BMI=体重(キロ)÷身長(メートル)÷身長(メートル)}という指標で判断します。日本肥満学会では、BMIが22前後は最も病気になりにくく適正体重とされています。BMI25以上を肥満1度、30以上を肥満2度、35以上を高度肥満と分類します=表=。

 太っていると長生きできないのでしょうか? BMIが寿命と関連するのは65歳ごろまでで、それ以降は寿命との関連はあまり認められません。むしろ80代の高齢者ではBMIが27ぐらい、少し太っている方がよいのです。太っていても病気の合併症を免れて生き残ったと考えられていて、長寿レースの勝ち組ともいえます。高齢者は体重をあまり気にしない方がよいでしょう。

 しかし40代、50代の中年期ではそうではありません。肥満者は男性で1975年の2倍に増加しており、2019年の統計で40~50代男性の約40%がBMI25以上、約10%がBMI30以上であることは、今後大きな医療問題を引き起こすでしょう。

 この年代では、肥満症が顕在化しておらず、健康診断を受けても軽度異常しか現れず放置している人も多いと考えられます。糖尿病や高血圧、高脂血症によって10年、20年かけて血管の内側にこびりついたプラークは、歯垢(しこう)のように取ることはできません。肝機能の軽度異常や脂肪肝を指摘される人が増えています。肝臓の肥満である脂肪肝は知らぬ間に肝硬変から肝がんになります。また中年期の肥満は認知症の強いリスクでもあります。病気が顕在化して合併症が起きてからでは長寿レースを勝ち残るのは難しくなります。減量に取り組むのは早ければ早いほどよいのです。まずは3%減量できれば血糖や血圧、肝機能などの有意な改善が認められます。

 肥満治療の基本は運動療法によって消費カロリーを増やし、食事療法によって摂取カロリーを少なくすることです。人間の脂肪1キロ(1000グラム)は7200キロカロリーです。毎日食事によって7200キロカロリー÷30=240キロカロリー(ごはん大盛り1杯)の食事を減らせば、1カ月後には体重が1キロ減る計算です。ただし単純にカロリーを減らせばよいかというとそうではありません。米国で1日400キロカロリーのダイエットが試みられましたが被験者に突然死が多発しました。突然死の原因はタンパク質の不足にありました。体重1キロ当たり1グラムのタンパク質が一日の必要量の目安です。

 中年期のダイエットは美容のためというより、10年後、20年後も健康でいるためのものです。1カ月に0・5~1キロずつゆっくりと体重を落としていきましょう。焦って無理な運動療法や食事療法をすることは絶対に禁物です。また基礎疾患のある方は必ずかかりつけ医のきちんとした指導を受けながらチャレンジしてみてください。