笠松競馬場で開かれたウマ娘プリティーダービーのトークショー。ファンの熱気で盛り上がった

 感動を呼んだ「ウマ娘シンデレラグレイ賞」。スタンドやラチ沿いを埋めた大勢のファンが見守る中、大原浩司騎手が騎乗したエイシンウパシが勝ち、温かい拍手が沸き起こった。レース後にはウマ娘の声優さんによるトークショーも開かれ、女神2人がオグリキャップを生んだ聖地に降臨。ゴール前はライブステージの熱気に包まれた。

 トークショーが始まる前、ウマ娘シンデレラグレイ賞のレースを見た感想をスタンドで聞いた。10代女性は「何かすごかったですね。全部芦毛のお馬さんで迫力があって、拍手も多くていいなと。ウマ娘がコラボとかしているから来ましたが、タマモクロスが好きで、場内ではご飯を食べたり、グッズを買っていました。唐揚げや焼き鳥がすごくおいしかったです」とにっこり。20代男性は「いつもは中央のレースばかり見に行っていますが、笠松のコラボレースも素晴らしかった」と感激していた。

 ウマ娘シンデレラグレイ賞は冠協賛レースではないため、表彰式は行われなかった。それでもゴールした優勝馬エイシンウパシと大原騎手が装鞍所前に戻ってくると、笹野博司調教師らと一緒に記念の口取り写真を撮影した。ウマ娘シンデレラグレイ賞Vに輝いた大原騎手に喜びの声を聞いた。
 

ウマ娘シンデレラグレイ賞優勝馬エイシンウパシと喜びの関係者

 ■「お客さんが多くていいですね。拍手は聞こえました」

 ―スタンドがいっぱいで、ゴールでは大きな拍手が湧いていましたね。

 「やっぱりお客さんは多い方がいいですね。拍手は聞こえました。馬もいつもと感じが違っていて、やっぱり入れ込んでいましたね。すごい人だったんで、これだけ入ってくれると気分がいいです」

 ―騎乗馬の感触はどうでしたか。2番手から4コーナー先頭で完勝でしたね。

 「スタートはうまく切れて、道中もすごく折り合っていて良かった。前回は逃げて2着。その前のレースで乗った大畑君に『2番手から競馬をしたこともある』と聞いていたし、いい感じで行けた。馬のリズムに任せて流れのままで、いいスピードがあった」

 ―昨年はヤマニンカホンが優勝。主戦だった大原騎手も口取りに参加していましたね。今年は人気上位で自信がありましたか。

 「どのレースでもそうですが、勝てると気分がいいですね。メンバーを見て、やれるんじゃないかと。展開もこの馬がいいポジションを取れそうで、外枠も良かった。(笹野厩舎の馬で)僕がずっと攻め馬をさせてもらっていた。レースでの騎乗は2回目でしたが、前回2着だったのは落鉄のアクシデントもあったんでね」

 ※昨年の優勝馬ヤマニンカホンはレース中のけがで引退したが、北海道の牧場で繁殖牝馬として元気に過ごしている。

エイシンウパシと返し馬に向かう大原騎手。ファンとの距離が近い

 ■「盛り上がるレースで、競馬に興味を持ってもらえると一番いい」

 ―第2代チャンピオンですね。ネットなどでも反響があるかと。

 「ありがとうございます。いいですね、こういう盛り上がるレースは。これまでとは違う世代の人も見に来ているんで。それで競馬に興味を持ってもらえると一番いいです」

 ―大原さんの馬が勝つと思っていましたが、素晴らしい騎乗でしたね。

 「馬が強かったです。入れ込みもある程度のところで我慢してくれたんで、それも良かったですね」

 ―この後、ライブ(トークショー)もありますが、大原さんは?

 「僕は呼ばれていないです。声優さんの邪魔になっちゃうんでね(笑い)。騎手会長は本年度も続けることになりました。よろしくお願いします」

 漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」では、オグリキャップの初勝利後にウイニングライブがあった。場内の飲食店前にある特設ステージで「カサマツ音頭」を踊るシーンは、ほほ笑ましかった。JRAの菊花賞や有馬記念ではキタサンブラックが勝ち、オーナーで歌手の北島三郎さんがレース後に「まつり」を熱唱したことがあった。最終レース後に、優勝ジョッキーを迎えてウイニングライブが開かれる日がいつか来るかもしれない。

ウマ娘シンデレラグレイ賞の熱戦。ゴールする前からファンの拍手が沸き起こった

 ■大きな拍手とともに脈々と受け継がれている「芦毛伝説」

 大原騎手は、笠松競馬が一連の不祥事で苦境に立った時期から騎手会長を務めてきた。騎手がわずか9人に半減し、8ヵ月間の自粛を経て一昨年9月に再出発した時には「残った騎手で頑張っていくしかない。いい騎乗で、白熱したレースを見せることが一番」と力を込めていた。「笠松再生」に向けた努力が報われた1勝となった。

 ファンから送られた拍手を改めて映像で確認してみた。1着馬がゴールする100メートル以上前から既に拍手は鳴り始めており、ゴールインの瞬間まで7~8秒。全馬が無事ゴールすると、健闘をたたえる温かい大きな拍手が1~2コーナーまで続き、トータル25秒間も響き渡った。競馬場は初めてというウマ娘ファンも多く、競走馬のスピードと迫力を生観戦で体感し、その感動を表現してくれたのだ。

 誘導馬を務めているのはエクスペルテとウイニーの2頭。もちろん芦毛馬で、装鞍所からパドックまでの長い距離を先導し周回。レースに挑む各馬に異変はないか、様子を見守りながら返し馬へと送り出す。オグリキャップの笠松デビューから36年。芦毛馬限定レースの復活とともに「芦毛伝説」は脈々と受け継がれている。引退後も「永続の守り神」となったオグリキャップがいなかったら、笠松競馬は廃止になっていただろう。天国に旅立ってからもオグリキャップ像として笠松に目を光らせ、元気とパワーの源となって関係者やファンを勇気づけている。

ウマ娘オグリキャップ役の高柳知葉さん(左)とイナリワン役の井上遥乃さん

 ■オグリキャップ役の高柳知葉さんら聖地デビュー

 「ようやく」「ついに」ウマ娘オグリキャップ役の声優・高柳知葉さんが笠松競馬場デビューで、聖地降臨を果たした。

 シンデレラグレイ賞のレースの余韻が漂う中、高柳さんとイナリワン役の声優・井上遥乃さんによるトークショーがゴール前で開かれ、スタンド一帯は若者らでびっしりと埋め尽くされた。

 コース上にステージカーが登場。レースには間に合わなかったが、トークショーだけのために来場した高校生らのウマ娘ファンもいてライブ会場のような熱気で盛り上がった。

「シンデレラグレイの中で見ていた景色」と語る高柳さん

 ■「シンデレラグレイの中で見ていた景色」

 長谷川満さんの司会進行で「軽妙トーク」がスタート。ウマ娘シンデレラグレイでは「永世3強」としてライバル同士の2人。高柳さんは早速「私はオグリキャップ。故郷のみんなに喜んでもらえるよう精いっぱい頑張るつもりだ。よろしく頼むね」とあいさつすると、大きな拍手に包まれた。

 オグリ役となってから、先に名古屋や高知でトークショーが開かれており、笠松ファン待望の「聖地デビュー」が実現した。笠松競馬場の雰囲気については「シンデレラグレイの中で見ていた景色だという感動がありますね。お馬さんとの距離が近い感じがします」と来場を喜んでいた。

漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」にも登場した丸金食堂で人気のきしめん(夏メニュー、えびの天ぷら入り)

 ■「きしめんがおいしかった。競馬場で食べられるのすごい」

 人気の笠松グルメについては「きしめんがおいしかったです。シンデレラグレイの作中でタマモクロスが食べているシーンがありますし、これは食べなければならない」との熱い思い。お昼に味わい「これまで名古屋でも食べ逃していましたが、やっと食べられて超おいしかったです。おだしもおいしくて、これ競馬場で食べられるのすごいね」と。井上さんも「麺はツルツルだし、モチモチ感もあって本場の味ですね」と美味を堪能したそうだ。

 きしめんは漫画にも登場する場内の丸金食堂に注文された。オグリキャップは「大食いキャラ」でもあり、「完食後もお代わりできるように?」と10杯以上が運び込まれていたが…。スタッフさんにも振る舞われたのか。2人はご当地グルメの味に大満足だった。この日、丸金食堂にはウマ娘ファンが殺到。店内でも「タマモクロスのきしめん」は1番人気で、夏メニューも始まった。

 ■出走馬の紹介にチャレンジ、「クリゲバ(栗毛馬)かみました」

 2人はウマ娘連携レースの本馬場入場では、持ち前の美声で出走馬の紹介にもチャレンジ。「シンデレラグレイ賞でレアな経験をしました。今回やっと来られてうれしいですし、芦毛のすてきなレースで感慨深いです。みんなすごくきれいで見ていてワクワクしました」

 キャップの宿敵・イナリワン役の井上さんも奮闘。最初に「私はチャキチャキの江戸っ子だい。誰よりもでっかいウマ娘になってやらーい」と威勢よくあいさつ。栗毛馬レース「ベルノライト賞」の出走馬紹介では「クリゲバ(栗毛馬)を見事にかみました。それでもシンデレラグレイ賞が第3回、第4回とできるよう頑張りたい」と人生初のトークショーで元気いっぱいだった。

ウマ娘プリティーダービーのアニメにも登場した「さるぼぼ」を手にする高柳さん(左)とクリアうちわを掲げる井上遥乃さん

 ■ウマ娘アニメでも登場した「さるぼぼ」を手に

 高柳さんは「さるぼぼ」を手に持ち、井上さんはオグリやイナリワンが描かれたクリアうちわを掲げると、ファンも入場時に配布されたうちわを手に大盛り上がり。

 高柳さんが、さるぼぼをアピールしてくれるとは意外だった。「お土産として有名で、スタッフさんが用意してくれた」そうだが、「ウマ娘人気にあやかってヒットするかも」と岐阜県人としては、心遣いがうれしかった。

 高柳さんは「さるぼぼとは『何のこっちゃ』とお思いの方は、放送中のアニメ『ウマ娘プリティーダービーROAD TO THE TOP』に登場するので見てください」と呼び掛けた。それは、ウマ娘のナリタトップロードが「日本ダービー頑張ってください。先輩なら絶対勝てます。応援しています」と後輩からレースのお守りとして「必勝さるぼぼ」を手渡されたシーンだった。

さるぼぼは「サルの赤ちゃん」を意味する飛騨の民芸品

 ■「安産や縁結び」「病や災いが去る」とも

 さるぼぼは、安産や縁結びなどに御利益があるとされる岐阜県飛騨市の民芸品で、腹掛けと頭巾を着けた人形。さるぼぼとは、飛騨の方言で「サルの赤ちゃん」を意味する。サルの音読みのエンと縁をかけて良縁や家庭円満、訓読みのさると去るをかけて、病が去る、災いが去るとして知られるようになった。さるぼぼは「ウクライナ侵攻終結を」と平和願うチャリティーストラップとしても、地元で製作されたことがある。

 地方から中央の舞台へと同時期に駆け上がったオグリキャップとイナリワン。2人はそれぞれの戦績を紹介。1988年11月、笠松での第1回全日本サラブレッドカップには、イナリワンも大井から参戦。笠松のフェートノーザンに敗れ、悔しさをバネに中央移籍。89年の毎日王冠ではキャップと大接戦の末、ハナ差負けしたが、有馬記念でキャップとスーパークリークを破って優勝。映像を見た井上さんは涙ぐむほど感激したという。

 井上さんはファンに「どこから来ましたか」と質問。東海に続いて関西や関東からが多かった。遠来のファンでは東北から車で来た人もいたし、北海道や海外から、聖地巡礼ではるばる来場した熱心なファンもいた。「オグリの里・聖地編」を購入した台湾からの若者もその一人。岐阜城にも行ったとのことで、漫画に出てくるオグリとベルノライトの金華山でのトレーニングシーンを体感したかったのだろう。

ファンとのコラボで大成功だったウマ娘トークショー

 ■「笠松の空気を感じながら、オグリキャップ役を」

 スタンド前ではオグリキャップの大きなぬいぐるみ(幼児が乗れるサイズ)を抱えたファンの姿もあった。高柳さんは「当時のファンの熱量がすごかったように感じますね。有馬記念のオグリコールは、オグリのキャラを演じる時に、一番印象に残ったワンシーンですごい馬でした。笠松競馬場でも引退式があり、翌年から毎年、オグリキャップ記念が開催され続けていて、オグリ役を演じるようになって、その笠松競馬場へようやく来られたという気持ちでいっぱいです」と聖地へ来場できた喜びを何度も語った。

 最後に「朝早くから並んでくださった方も多くて、ありがとうございます。ようやくここに来られて、ここでの空気を感じながら、オグリキャップを再現していけたらいいな。(シンデレラグレイの)今後の展開も楽しみにしていただけたらうれしいです」と語り、温かい拍手に包まれた。オグリキャップの聖地・笠松競馬場に舞い降りた女神たちのトークショーは無事「完走」。大成功で盛り上がった。 

 ■競馬場デビューのファン「走る姿に感動して涙出そうに」

 高柳さんは「笠松の風を感じながらいろいろなお話をできて幸せな時間でした。また来られますように」と。井上さんは「ドッキドキだったけど楽しかったし、最高の1日でした。(最後、かまずに)『栗毛馬限定』を言えて良かった」と自らのツイッターでそれぞれコメントを寄せた。       

 ファンからは「競馬場デビュー。本物の馬、速すぎるし、めちゃくちゃカッコよかった。走る姿に感動して涙出そうになった」「高柳さんも井上さんもかわいくて楽しいステージでした。開催していただき、ありがとうございました」といった声が寄せられていた。

 オグリキャップ初代オーナーのグッズ店「小栗孝一商店」では、場内でキャップの絵馬や「オグリの里」も販売。この日は「ウマ娘シンデレラグレイ」作者で漫画家の久住太陽さんも来場。「オグリの絵馬掛けコーナー」には、久住さん書き下ろしの絵馬も飾られた。「シンデレラグレイ賞、ベルノライト賞ありがとうございます!」と感謝の言葉も記され、久住さん直筆の「お宝グッズ」を見つけたファンたちを喜ばせた。

正門前で愛馬会軽トラック市も開かれ、オグリキャップ関連グッズなどが人気を集めた

 ■オグリキャップ関連グッズが人気

 正門の外では愛馬会の軽トラ市も開かれ 根強い人気。オグリキャップ関連グッズなどのチャリティーオークションや抽選会も開かれた。トークショー後には、引退馬協会のカレンダーを買い求める行列もでき、にぎわった。カレンダーにはウマ娘キャラとして人気が高いナイスネイチャも登場し、新たに写真集も発売される(「ホース・ファクトリー」で5月16日から)。有馬記念で3年連続3着になるなど「ブロンズ(3着)コレクター」として善戦マンぶりが人気。4月に35歳の誕生日を迎え「最高齢重賞勝ち馬」として健在だ。

 ウマ娘コラボ企画で沸騰したオグリキャップ記念シリーズ(前半)の3日間。ゴールデンウイーク前日ということもあってか、シンデレラグレイ賞開催日の来場者は3000人余りと昨年を下回ったが、ウマ娘ファンとのコラボで実現したトークショーは「すごく楽しかった」と好評だった。ウマ娘イベントは全国で開かれているが、芦毛馬オグリキャップとのコラボレースを開ける笠松競馬場は最高のステージ。ウマ娘さんもトレーナーさんもまた遊びに来てください。

 ■「NHKマイルC」の予想で3連単的中

 4月に始まったオグリの里・出張予想コラム「ヒデの目」(岐阜新聞電子版・土曜版「CLIP」)では大ホームランを放つことができた。JRAの「NHKマイルC」でGⅠレース初的中。笠松の栗毛馬限定「ウマ娘ベルノライト賞」もサイン馬券になった。

岐阜新聞電子版・土曜版「CLIP」=5月6日付

 結果は3連複2万7690円、3連単26万760円の高配当となった。オグリキャップが勝った現アーリントンCとNZTのトライアル組を有力視。優勝したシャンパンカラーは栗毛馬。笠松で栗毛レースが開かれたことから注目し幸運を呼んだ。目指すは「代打逆転サヨナラ満塁場外弾」。有力馬だったクルゼイロドスルが出走取り消し。「代打」として△印に加えたウンブライルが2着に突っ込んで的中できた。これからもGⅠレースで夢のある一撃を狙っていきたい。