泌尿器科医 三輪好生氏

 膀胱(ぼうこう)炎という病名は皆さん聞いたことがあると思います。女性が一度は経験するといわれるほど身近な病気です。

 一般的に膀胱炎というと細菌性膀胱炎=図左=のことを指します。膀胱の中に入り込んだ細菌が繁殖して粘膜の表面に炎症を起こすことで発症します。膀胱炎になると尿がたまっていないのに我慢できず何度もトイレへ行くようになります。他にも下腹部の不快感や残尿感、排尿時の痛みや血尿を認めることもあります。

 膀胱炎が女性に多い理由は男性よりも尿道が短く細菌が膀胱に侵入しやすいためと考えられています。細菌が膀胱内に侵入しても短時間のうちに尿と一緒に追い出してしまえば大丈夫ですが、水分を控えて半日以上トイレへ行かないと、細菌に膀胱内で繁殖する十分な時間を与えてしまい膀胱炎になってしまいます。また、疲労やストレスなどで免疫力が低下した時にもなりやすいといわれています。

 膀胱炎は抗生剤を内服することで治ります。まずはかかりつけの医師に相談してみてください。まれに抗生剤を内服してもよくならないことや、治った後またすぐに膀胱炎になってしまうことがあります。そのような時には膀胱炎以外の病気、例えば膀胱結石や膀胱がんなどが隠れている可能性があるので専門医を紹介してもらうとよいでしょう。

 一度、膀胱炎になると心配になって水分を多く取り、早めにトイレへ行く習慣がついて、かえって頻尿が悪化してしまうことがあります。通常は適度な水分摂取で3~4時間以内にトイレへ行けば膀胱炎になる心配はありません。膀胱炎をきっかけに正常な排尿のタイミングがわからなくなってしまった場合には排尿日誌(排尿時間と1回の排尿量を24時間記録する)をつけてみるとよいでしょう。

 一方、同じ膀胱炎と名前が付いていても尿検査では異常がなく見逃されやすい病気に間質性膀胱炎=図右=があります。頻尿や排尿痛など普通の膀胱炎と症状は似ていますが、尿検査で異常がないことが多く抗生剤も効きません。他に特徴的な症状として尿がたまってきたとき膀胱に痛みを感じます。そして排尿をすると痛みが和らぎます。中には痛みが起こる前に不快感で早めに排尿をしてしまうため痛みを感じない人もいます。

 膀胱炎、過活動膀胱などの診断でさまざまな治療を受けても症状は良くならず、最終的には精神的な問題と言われて精神安定剤を処方されている患者さんも少なくありません。間質性膀胱炎では粘膜の外側の間質が慢性の炎症を起こして知覚過敏の状態になっています。原因はいまだ分かっていません。

 間質性膀胱炎の診断では膀胱の内視鏡検査が行われます。内視鏡で膀胱の粘膜にハンナ病変という特徴的な異常がみられる場合には容易に間質性膀胱炎と診断がつきますが、内視鏡で異常のみられない間質性膀胱炎もあります。近年ではハンナ病変がみられるものを間質性膀胱炎(ハンナ型)、みられないものを間質性膀胱炎(膀胱痛症候群)と分けて診断されます。

 治療は対症療法が中心となりますが、麻酔がかかった状態で水を注入して膀胱を拡張する膀胱水圧拡張術という手術療法もあります。ハンナ病変がある時はその場所を内視鏡で凝固、または切除します。間質性膀胱炎は直接命に関わる病気ではありませんが、頻尿と痛みが続くことで日々の生活に大きく支障を来します。まずは正しい診断が必要です。膀胱炎の治療を受けてもよくならない時は一度専門の施設を紹介してもらうとよいでしょう。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)