泌尿器科医 三輪好生氏

 暑くなるこの時期になって急に増えてくる病気の一つが尿路結石症です。尿路結石の歴史は古く、約7千年前の古代エジプトのミイラからも発見されています。また紀元前、古代ギリシャの記録でも尿路結石の治療に関する記載があります。尿路結石の原因に関してはまだ謎な部分も多く現代になってもなお、われわれを苦しめ続けています。日本では男性の7人に1人、女性の15人に1人が一生で1度は尿路結石に罹患(りかん)するといわれており、罹患率はここ数十年で急激に増加しています。

 尿路結石症の主な症状は痛みです。腎臓の中でできた結石が尿管まで落ちてきて詰まり、尿の流れが妨げられると、腰から下腹部に強い痛みが生じます。夜間から早朝にかけて起きることが多く吐き気や血尿を伴うこともあります。明け方に突然の激痛があり救急車で病院まで運ばれて来ることも珍しくありません。

 他の季節と比べて夏に2倍発生しやすいといわれています。5ミリ以下の小さな結石であれば自然に膀胱(ぼうこう)まで流れ落ちて尿と一緒に排出されることが多いですが、尿管の中に長期間とどまっていると腎機能が低下する原因となります。自然に排石しない場合は手術が必要になります。

 体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は衝撃波を発生する装置を体に密着させ、結石を細かく破砕して排石しやすくする治療です。結石の硬さや存在する位置、大きさによっては1度で十分に破砕できないため繰り返し治療を行う必要があります。経尿道的結石破砕術(TUL)は細い内視鏡を尿道から膀胱を通って尿管まで進め、レーザーなどで直接結石を破砕する治療です。

 尿路結石は80~90%で再発するといわれています。結石の原因は体質の影響が大きいと考えられているので再発を完全に防ぐことは難しいですが、予防に努めることで再発率を低下させることができます。ポイントは十分な水分摂取と食生活の改善です。尿量が少ないと尿の中に排出された老廃物の濃度が高くなり結晶化しやすくなります。

 夏場は特に脱水になりやすいので水分を多く取ることが重要です。結石のできやすい人は1日2リットル以上の水分摂取をお勧めします。食生活改善の基本は、結石の原因となる尿中のシュウ酸や尿酸などを増やす肉類の取り過ぎに気を付け、野菜の摂取量を増やすことです。肉類を取り過ぎると腸内の脂肪酸が増え、腸管からのシュウ酸の吸収が促進されることで尿中のシュウ酸が増えて結石ができやすくなります。また、動物性タンパク質の取り過ぎにより尿中の尿酸が増えることも結石の原因となります。尿中のシュウ酸濃度を下げるためにはシュウ酸を多く含む食品(ホウレン草、タケノコ、チョコレート、コーヒー、紅茶、サツマイモ、レタス、ブロッコリー、ナス、ピーナツなど)の過剰な摂取は控えるべきです。食べる際にはゆでることでシュウ酸の量が減ります。またシュウ酸を含む食品を取る際には牛乳などカルシウムを含む食品を一緒に取ることで、シュウ酸の腸からの吸収を減らすことができます。

 尿酸を増やさないためにはビールなどプリン体を多く含む食物の取り過ぎに注意する必要があります。野菜、穀物、海草などは尿中のクエン酸やマグネシウムを増加させることで結石の予防につながります。また食生活の乱れは結石のリスクを高めます。夕食を中心とした食生活、特に遅い時間に動物性タンパク質を多く摂取する人は要注意です。1日3食、バランスの良い食生活に心がけ、夕食は就寝の4時間以上前に済ませるようにしましょう。