泌尿器科医 三輪好生氏

 女性に特有の病気として、咳(せき)やくしゃみ、運動などで腹圧がかかった時に尿が漏れてしまう腹圧性尿失禁や、子宮や膀胱(ぼうこう)、直腸などの臓器が膣(ちつ)からはみ出して出てくる骨盤臓器脱があります。これらの病気はいずれも骨盤底が緩むことが主な原因と考えられています。
 女性の骨盤底が緩む最も大きな原因は妊娠、出産によって骨盤底筋や神経が傷つくことであり、それに肥満や慢性の便秘、加齢による女性ホルモンの低下、筋力の低下などが加わるとさらに緩みやすくなります。骨盤底を支えている骨盤底筋は本来、腹圧がかかるときに収縮して骨盤底をサポートしますが、緩んだまま腹圧がかかり続けると骨盤内の臓器がぐらついてきて尿漏れや臓器の下垂が起こり始めます。これを予防するために行うのが骨盤底筋トレーニング=イラスト=です。
 骨盤底筋は骨盤の底を覆っている筋肉の総称であり、骨盤内の臓器を支えるとともに尿道、膣、肛門を取り囲んで締める働きもしています。この筋肉を意識的に収縮させるトレーニングを行うことで、骨盤底のサポートを強化して症状の改善や悪化の予防ができることが分かっています。骨盤底筋は体の表面にある筋肉ではないので直接手で触れることはできません。息を吐いて体の中を陰圧、つまり体内の圧力を低くしながら、肛門をすぼめるようなイメージで骨盤底を体の中に引き上げるようにして締めます。5秒以上持続させる動きと、早く繰り返す動きを10回ずつ行います。姿勢は自由ですが、腹筋や臀(でん)部に力が入ってしまうと逆効果なので、最初はおなかやお尻に手を添えながら体の力を抜きやすいあおむけで行うと良いでしょう。骨盤底筋の場所を意識しやすいようにバランスボールなどに座って行うのも良い方法です。
 骨盤底筋トレーニングは正しい方法で3カ月以上続けることで効果を実感できるといわれています。正しく収縮できているかは、お風呂の中などで指を膣に入れて締まることで確認できますが、指を入れることに抵抗がある場合は、お尻の割れ目の上にある尾骨に触れ、骨盤底の収縮に合わせて動くかどうかで確認できます。骨盤底筋トレーニンングは毎日続けることが大切です。思い出した時だけやっても十分な効果は得られません。筋トレと一緒で自分の意思だけでは三日坊主に終わってしまうことが多いです。忘れないようにするためには毎日必ず行う動作、例えば歯磨きの後、お風呂に入った時、朝布団から出る前などに合わせて行うとよいでしょう。
 トレーニングが正しく行えているか自信がない場合や、一人で続ける自信がない場合は専門家の指導を受けることをお勧めします。最近は骨盤底筋トレーニングを含む行動療法を専門的に指導する外来も全国的に増えてきました。正しく行えるように指導してもらうだけでなく、継続するための動機づけとして定期的に受診することもできます。お産の直後に一時的にあった尿漏れが治っても、実は骨盤底の緩みや神経の損傷はそのまま残っている可能性があります。将来的な腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱の予防のためにもお産の時期から骨盤底筋トレーニングを行っておくことをお勧めします。
 次回は男女ともに年をとると増えてくる夜間頻尿についてお話しいたします。
(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)