産婦人科医 今井篤志氏

 誰もが長生きしたいと願っています。有酸素運動の代表であるウオーキングと寿命について、最近欧米で、数万人の成人や高齢者を10~20年間追跡した大規模な研究が数多く報告されています。歩く速さが健康や長寿に大きく関係しており、さらには寿命を予想できるかもしれないという内容です。

 歩く速さは、急いでいる時や体調の悪い時などを除いて、人それぞれのペースがあります。平均すると秒速0・8~1・0メートル(時速2・9~3・6キロメートル)です。65歳以上の男女3万4485人を最長21年間追跡した研究では、1・6メートル/秒で歩行する人の平均寿命は95歳以上、0・8メートル/秒の人は約80歳、0・2メートル/秒の人は約74歳です。歩行速度を基にした理論上の余命も計算できます=図=。

 イギリスで行われた47万4919人の調査データを解析した研究では、歩行速度が速いと自己申告した男性の推定寿命は85・2~86・8歳、女性は86・7~87・8歳です。一方、歩行速度が遅いと自己申告した男性の推定寿命は64・8歳、女性は72・4歳です。肥満度や握力といった因子よりも歩行速度の方がより密接に寿命に関係しています。

 歩く速さが寿命と関係するのはなぜでしょうか。二本足で歩くという行動を私たちは簡単に行っていますが、実はかなり複雑な行動です。安定して二足歩行するロボット(アシモなど)の開発が非常に困難だったことからも想像できると思います。脚の関節を曲げる、蹴り出す、左右のバランスをとるといった、モーターやバッテリーなどの機能が精密に協調しなければなりません。筋肉、骨、神経、呼吸器、心血管系などが正常に組み合わさってこそ速く、効率的な歩行ができます。

 歩行速度が遅い、頑張っても速く歩けないのは、体のどこかに異常が起きていてスムーズな連動運動が行えていないからです。つまり速く歩くことができる人は、心血管の疾患や糖尿病などの重大な病気もなく健康な状態にあるということです。

 二本足で歩く人間には四肢動物以上に脚に大きな筋肉があります。筋肉が収縮伸展すると周囲の血管も収縮伸展します。大量の血液をため流すポンプとして血液循環の中でも重要な働きを担っています。それだけエネルギーを必要とするので、歩行による有酸素運動は代謝機能を活発にし、肥満の抑制にもなります。

 歩行速度1・0メートル/秒(3・6キロメートル/時)とはどのくらいのスピードなのでしょうか。身近な例では、歩行者用信号機がある横断歩道を青信号の間に安全に渡り切れる速さです。また、不動産の広告でよく見掛ける「駅徒歩○分」の表示は、「道路距離80メートルを歩くのに要する時間を1分とする」という規定にのっとっています。これらより速く歩くことを目指しましょう。20、30分の早歩きは、10分間、2、3回に分けて行っても効果は同じだといわれています。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)