消化器内科医 加藤則廣氏

 急性虫垂炎は虫垂に炎症を来す疾患です。小児から高齢者まで幅広く見られ、特に10代から30代の若い人に多く見られます。今回は最近の新しい知見も加えて説明します。

 虫垂は右下腹部に位置し、盲腸に付随しています=図1=。急性虫垂炎は、虫垂開口部が糞(ふん)石や感染などで閉塞(へいそく)して虫垂内の圧力が上昇し、内部に浮腫と炎症が出現して発症します。炎症の程度でカタル性虫垂炎、蜂窩織(ほうかしき)炎性虫垂炎、壊疽(えそ)性虫垂炎に分類されます。虫垂壁に穴が開くと穿孔(せんこう)性虫垂炎と呼ばれますが、壊疽性虫垂炎と穿孔性虫垂炎は、治療が難航するため複雑性虫垂炎とも呼ばれます。特に小児では穿孔を来しやすいため早期診断が重要です。

 自覚症状として、最初は痛みが胃の辺りに出現しますが時間の経過とともに右下腹部に移動します。また食欲不振や悪心・嘔吐(おうと)、37度台の微熱を伴います。へそと骨盤の右上の突起である右上前腸骨棘(こつきょく)を結んだ直線上の外側1/3の部位を押すと痛みがあり、これはマックバーネーの圧痛点と呼ばれます=図2=。複雑性虫垂炎では38度以上の高熱や腹腔(ふくくう)内膿瘍(のうよう)、腹膜炎が出現します。腹膜炎は指で腹を押さえた時より、離した時に痛みが増幅します。白血球の増加やCRP(C反応性タンパク)の上昇などの血液検査とともに、腹部超音波検査、腹部CT(コンピューター断層撮影)検査が、虫垂の腫大や穿孔、膿瘍などの重症度判定に極めて有用です。ただしCTは放射線被ばくのため妊婦は選択できず、小児は2017年の新しいガイドラインでは診断が困難な時などに限定されています。

 治療は、以前はほぼ全例で虫垂切除の緊急手術が行われていました。しかし最近は、カタル性虫垂炎ではまず抗生剤による保存的治療が選択されます。ただし、虫垂内に糞石などがある=図3=と再発しやすくなります。一方、複雑性虫垂炎では緊急手術が行われます。緊急手術は合併症の発症が少なくなく、最近では抗生剤の投与で炎症を抑えてから数カ月後に虫垂切除術を行う、待機的手術も選択肢に加わっています。また手術は開腹手術より、腹腔鏡下手術を行う病院が増えています。いずれにしても、右下腹部痛に気付いたら重症化する前に早めに医療機関を受診することが大切です。

 虫垂は、これまでは生理機能がなく不要な器官とされてきました。しかし最近の研究では腸内の免疫機能を保つ働きや、多くの疾患と関わりのある腸内細菌のバランスを取る重要な働きを有するとの報告もあります。

(岐阜市民病院消化器内科部長)