脳神経外科医 奥村歩氏

 こんにちは、奥村歩と申します。「もの忘れ外来」の医者です。金華山と長良川そして、岐阜大に育てられました。故郷の皆さまへの恩返しも兼ねて、連載の執筆を担当します。

 世界一の超高齢社会となった日本。認知症と、その予備軍である軽度認知障害(MCI)の数は、1000万人を超えると推計されています。

 今日、認知症の本人と、その家族を苦しめているものは、認知症そのものではありません。世間に広がった"認知症に対する誤った考え方"が問題なのです。認知症は正しく理解し、適切に対応すれば怖くありません。実は、私の両親も、認知症になりましたが、それなりに楽しく人生を暮らしています。

 私の連載では、「正しく知れば、認知症は怖くない!」と称して、実用的な情報をお伝えします。

 認知症の対応で、まず、大切なことは、早期発見です。早期に診断がなされ、適切に対応すれば、本人や家族が不幸になるような事態は、避けることができるからです。認知症もがんと同じで、「早期発見に勝る治療なし」。しかし、認知症には、がんとは異なる点があります。家族や友人らが、本人の行動を観察するだけで、早期発見ができるのです。

 表にある、身近な人が認知症に気付く代表的な五つのサインを紹介します。認知症の「もの忘れ」の特徴は、昔の出来事は覚えていても、最近の出来事ほど忘れやすいことです。

 30分前に、見たり、聞いたり、体験した「近時記憶」が、海馬が萎縮して、脳に刻み込まれなくなります=図=。そのため、最近の旅行や孫の結婚式など、印象的な出来事でさえ忘れることがあるのです。これは、人や物の名前が出てこないような、加齢による「もの忘れ」とは少し違います。

 「『朝ドラ』を観なくなった人は、なぜ認知症になりやすいのか?」(幻冬舎)とは、私の最新刊のタイトルです。認知症が始まると、連続ドラマを見なくなる傾向を認めます。連続ドラマの前回のストーリーが覚えられないので、あらすじが分からなくなる。そのため、つまらなくなって、今まで見ていたドラマを見なくなるのです。

 他のサインとしては、同じことを何度も言ったり、聞いたりする。鍵や携帯電話をなくす、といったことも頻繁に起こります。

 また、今まで積極的に外出していたのに、家に閉じこもるようになるのも要注意です。井戸端会議での「おしゃべり」も連続ドラマのようなものです。近時記憶の衰弱によって、世間話のあらすじが曖昧(あいまい)になり、人付き合いが苦手になってしまうのです。

 このようなサインを認める場合は、まずは「かかりつけ医」に相談をしましょう。そこから、場合によっては、認知症専門医がいる医療機関に紹介されます。そして、MRI(磁気共鳴画像装置)検査などを行い、認知症のタイプの診断や最善の対応方法などが計画され、治療へとつながるのです。

(羽島郡岐南町下印食、おくむらメモリークリニック院長)