産婦人科医 今井篤志氏

 皆さんはイグノーベル賞をご存じでしょうか? 「人々を笑わせ、考えさせてくれ、なおかつ科学的な裏付けのある業績」に対して与えられるノーベル賞のお笑い版です。もちろん科学論文として国際的に評価されていることが前提です。日本はこの受賞者を毎年のように輩出している常連国です。

 2015年のイグノーベル賞は、米ジョージア工科大のチームの研究で「体重が3キロ以上の哺乳動物の排尿時間はすべて約21秒である」という研究でした。犬や猫からゾウやシロクマの大型動物も、そしてヒトも平均21秒(誤差は13秒)で排尿するのです。体の大きさに比例して尿量も増え、排尿時の勢いもあります。機会があったら、牧場や動物園で大型動物の排尿を観察してみてください。

 一方で、体重が3キロに満たない小動物では、排尿の仕方が大きく異なり、排尿時間が1秒以下から数秒の動物もいます。体重が3キロ以下になると尿量も少なくなり、尿自体の表面張力や粘度が大きく影響してしまうからです。

 日本人を対象にした研究でも、排尿時間は男性20~40代も、女性20~60代も平均21秒前後です。長くても30秒以内です。そして1回の尿量は200~400ミリリットルです。

 排尿の仕方を復習してみましょう。膀胱(ぼうこう)や尿の通り道(尿道)は、平滑筋と呼ばれる筋肉でできています=図=。ゴム風船に水をためるように尿を蓄えます。平滑筋は、自分の意志で動かすことはできません。尿道の一部を輪状に巻いている外尿道括約筋は四肢の筋肉と同じく、横紋筋という筋肉ですので、自分の意志通りに動かせます。ある程度までは、自分の意志で尿を我慢できるのは、この尿道括約筋のおかげです。

 尿が膀胱にたまると、その情報が脳に伝わり排尿したいと感じます。脳からの指令が膀胱の筋肉を緩め、膨らみやすくします。同時に尿道の筋もきつく閉じて、尿が漏れ出てこないようにします。つまり、意識して我慢しなくとも、尿が漏れないのです。しかし、膀胱がさらに充満して膀胱の限界に近づくと、脳からの指令は膀胱の筋肉を強く収縮し、尿道を緩めます。こうして、排尿する準備が整います。まだ排尿する状況でないと、外尿道括約筋をきつく締めつけ、排尿を我慢します。排尿の準備が整ったと脳が判断すると、尿道括約筋も緩めて排尿します。

 排尿時間が30秒以上になるのは、劣化したゴム風船状態の膀胱で収縮力が低下した高齢者や男性の前立腺肥大などで尿道が圧迫され、尿道が細くなっている可能性があります。

 一度、ご自分の排尿時間を測定してみてください。また大型動物の排尿を目撃することがあれば、秒数を測ってみてください。「あっ本当だ!」と感動します。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)