大垣日大のエース山田=長良川
市岐阜商の森=長良川
県岐阜商の森=長良川
帝京大可児の加藤大和=長良川
中京・桑田=KYB

 相次ぐ強豪校の敗退で「波乱」が全国のキーワードとなった第105回全国高校野球選手権大会の地方大会。岐阜大会では、69年ぶりの夏の甲子園を目指した日本最古の高校野球部・岐阜の初戦敗退に象徴されるようにビッグイニング、大逆転が多く、予断を許さない展開が相次いだ。制覇したのは絶対的エース山田渓太を擁する大垣日大だが、全国高校球界のトレンド「継投」が改めてキーワードとして注目された岐阜大会だった。

 ◆波乱の時代にこそ不可欠な完全分業型継投◆

 予想外の展開が相次ぐ理由としてまず挙げられるのが、急激で異常なほどの気温の上昇。足をつる選手も多く、コンディショニングも難しかった。高温は近年の傾向だが、さらに今大会からの延長即タイブレークの影響、有望選手がかつてのように強豪校に集中せず、公立普通科などに分散する傾向も関係しているという見解もある。それ以上に大きな要因がコロナ禍。高校でも感染が拡大した2020年はじめ、本塁打数の減少に代表されるように練習不足が指摘されてきたが、現高校生の20年は、そのまま中学年代。みっちり基礎練習を積むべき年代だけに球児の成長にとってコロナ禍の影響は、むしろ、今年からが深刻視される。

 この状況下ゆえに、より重要性がクローズアップされるのが「継投」だ。一人の大エースが全試合完投する昭和の野球は終えんして久しく、投手の球数制限も定着した。高いレベルの複数投手をそろえ、よりプロ野球に近い、完全分業制とするトレンドの「継投」の嚆矢(こうし)は、今大会惜しくも3連覇を逸した県岐阜商の鍛治舎巧監督だ。鍛治舎監督は、秀岳館(熊本)時代に140キロ超のレベルの高い投手を複数枚そろえて、つないでいくスタイルを確立し、2016年春から3季連続ベスト4に導いた。2017年夏に花咲徳栄(埼玉)は現ドラゴンズの清水達也を抑えにして初優勝。記憶に新しい昨夏の仙台育英(宮城)は、鍛治舎スタイルで、史上初めて優勝旗の白河の関越えを果たした。

 県岐阜商と同じく準決勝で敗退したが、帝京大可児もプロ注目の大型左腕加藤大和をはじめ140キロ超えを複数枚そろえ、新たな起用策を示した。準優勝の市岐阜商も森楓真が大黒柱となったが、複数枚をそろえ大会に挑んだ。

 一方で、大垣日大はあくまでも山田という柱がおり、ほかの投手をつないでいく継投で、降板後も野手に入れて再登板させる方式。大垣日大は成功したが、岐阜も中京も同じ再登板方式の継投で敗退した。現在は全国的にあまり見られない継投方式。投手の負担、今後の成長を考えると県内でも完全分業の定着が望ましいのでは―と一考させられた。

 ◆〝緩い球〟の弊害 求められる総合力◆

 全国のトレンドの球種と言えば、横にわずかにずらすカットボールや、縦変化のチェンジアップ、さらにツーシームなど。県内でもこれらの変化球を巧みに使う投手はおり、県レベルのアップをうかがせる。ただ、警鐘を鳴らしたいのが、県で強豪校撃破のための武器になっている〝遅い球〟だ。目先の勝利のためには格好のツールだが、個々の選手の成長を考えると、大学やその先で通用できるスピードをつけさせることこそ王道。幸い、以前に比べ、140キロを超える投手は多く存在しており、県内でも常識になってきている。スピードボールを軸にトレンドのムービング系ボールを習得して強豪に立ち向かう投手の育成こそ、県のレベルアップにつながる。もちろん、複数枚での分業継投こそ、甲子園で勝つ道だ。

 高校野球はかつて投手力で1点を守り抜く野球だった。その後、池田(徳島)が始まりとされるパワー野球による打撃、高崎健康福祉大高崎(群馬)の機動破壊など特化型がトレンドで、日本一への近道とされてきた。だが、今では投手のクイック、バントシフトなどもレベルアップ。攻撃もバント、スクイズが減り、機動力、エンドランが増える傾向にある。鍛治舎監督も「総合力を高めないと全国で勝てない時代になっている」と指摘する。来春から飛ばない低反発バットに一新されるだけに、県でも一層、総合力を高めたチームづくりが待望される。

 ◆1、2年に好素材 選抜東海枠増で複数校出場に期待◆

 大垣日大には甲子園での活躍を期待するが、県内各校では新チームが始動し、選抜に向けた戦いがすでに始まっている。3連覇を逃したが県岐阜商に代表されるように1、2年に好素材がひしめく。帝京大可児、岐阜第一、中京も同様だ。投手だけみても個人名を上げれば、2年では県岐阜商の森厳徳、中京の桑田剛心、1年では岐阜第一の左腕水野匠登、美濃加茂の松山航ら。

 来春の選抜から、東海枠が以前の3枠に復活する。県から複数校が出場できる可能性も高まるだけに、全国で勝てるチームづくりを各校が目指し、切磋琢磨(せっさたくま)による県高校野球のレベルアップに期待したい。

取材・文 森嶋哲也(もりしま・てつや) 岐阜新聞記者。高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。