大垣日大八回裏2死走者なし、市岐阜商のエース森楓真の93球目だった。1番高川莉玖が真ん中高めの直球をはじき返した当たりは左翼越え同点本塁打となり、市岐阜商躍進の立役者をついに降板させた。互いに本調子でないながら工夫と気合い全開による壮絶なエース対決を制したのは、同点後に2点適時打を放った大垣日大のエース山田渓太だった。

市岐阜商×大垣日大=8回裏大垣日大2死、高川の本塁打の打球を見上げる市岐阜商のエース森=長良川

◇横スライダーを巧みに使い、粘投の大垣日大山田

 自慢の直球が高めに浮き、思ったように制球できない。山田は誰よりも自らが本調子でないことを痛感していた。それもそのはず、これまで5試合のうち登板しなかったのは4回戦美濃加茂戦のみ。4試合20回2/3、313球を投げ、しかもうち3試合では一度左翼に退いてから再びマウンドに戻っている。いくら鍛え上げた強豪校のエースと言えども想像を超えた疲労の中での登板。「2点までならオッケー」と自らを震い立たせて、右腕を振り続けた。

大垣日大×市岐阜商=力投する大垣日大の山田=長良川

 その2点を失った四回以降、投球を工夫する。「市岐阜商打線には高低よりも横の変化が生きるはず」とスライダーを有効に使い、ストレートも球速を変えて投じるなど、五回以降八回まで4回連続パーフェトピッチング。山田の魂のマウンドが、八回裏の起死回生の高川の本塁打を呼んだ。

◇限界越え縦スライダー武器に力投の市岐阜商森

 一方の市岐阜商森も4試合23回341球。中でも2日前の準決勝の県岐阜商との激戦では9回、138球を投げ抜いている。だが、立ち上がりから力をうまく抜く投球術を披露。躍進の武器となった縦スライダーをうまく使い、県岐阜商戦でみせた80キロ台のカーブ、ストレートも約10キロ差のある2種類を使い分ける頭脳的な投球で、立ち上がりに犠飛で1失点したが、その後は強打・大垣日大に加点を許さなかった。

 だが、逆転した四回あたりから、さすがにつらそうに踏ん張る森。北岡剛監督が「いけるか」と尋ねると「次に1点取られるまで投げ続けます」と答えた後、主将、エースらしい力強い一言を付け加えた。「でも、1点も取られませんよ」。

 だが、限界点をとうに越えていた八回裏、1ストライク1ボールから高川に投じた1球は、真ん中高めの甘い球となってしまった。「明らかに失投でした。でもやりきれたので悔いはありません」と試合後は笑顔も見せた。

◇「経験の差を見せられた」。山田、夏の聖地で飛躍誓う

投打に活躍し、ナインから胴上げで祝福される大垣日大のエース山田=長良川

 山田にも苦難は襲いかかる。九回表、相手の4番田中仁に執念の左中間三塁打を放たれ、5番野村航汰の遊撃内野安打で1点差。なおも四球、中飛で1死一、三塁。迎えるのは代打井上敬太。初球の142キロのこん身のストレートをファウルされた後は緩急をうまく使って追い込み、最後は決勝での勝負球スライダーで空振り三振に仕留め、〝阪口日大〟を16年ぶりの春夏連続甲子園に導いた。「最後は選抜の舞台を踏んだ経験の差を見せられた」と胸を張った。阪口監督が大会前に「山田の出来がすべてを握る」と話していたエースが、期待通りの大車輪の活躍。さあ、次は選抜のリベンジの夏の甲子園だ。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。