笠松「くろゆり賞」で、昨年の勝ち馬ヴェリイブライトを抑えて、優勝を飾ったカツゲキキトキト(左)

 猛暑が続いた岐阜の夏。40度超えも多かった真昼のレースで、暑さに弱い競走馬やジョッキーたちはよく頑張ってくれた。

 名古屋の大将・カツゲキキトキト(牡5歳、錦見勇夫厩舎)が1年ぶりに笠松へ参戦し、真夏のレースを盛り上げた。笠松デビュー馬でもあり、幼い頃に慣れ親しんだコースで、重賞の「くろゆり賞」(1600メートル、SPⅠ)に出走。昨年の勝ち馬ヴェリブライト(牡8歳、笹野博司厩舎)との直接対決となったが、大畑雅章騎手とのコンビですっきりとリベンジを果たした。

スタンド前のコース沿いで、カツゲキキトキトらに声援を送るファン

 昨年のくろゆり賞は、オグリキャップ記念勝利後の脚部不安で、休養明けの参戦だった。後方から追い上げる展開で、ヴェリブライト(加藤聡一騎手)とのマッチレースになったが、ゴール前の末脚が鈍り、まさかのハナ差負け。デビュー2年目の加藤騎手への「重賞初V」プレゼントとなってしまった。

 笠松巧者のヴェリブライトは名古屋(川西毅厩舎)に所属していたが、岩手を経て笠松の笹野厩舎に今夏移籍。くろゆり賞は一昨年2着、昨年1着と得意のレースだが、今年も8番人気と低評価だった。

 カツゲキキトキトは、逃げたメモリートニック(友森翔太郎騎手)を4コーナーでかわしたが、ヴェリブライト(丸野勝虎騎手)が後方から猛追。ゴール前では、再び2頭のたたき合いになったが、「もう負けられない」と大畑騎手が気合を入れ、カツゲキキトキトが半馬身差で制した。

 勝利騎手インタビューでホッとした表情。

勝利の余韻に浸る大畑雅章騎手

 大畑騎手 去年のリベンジを果たせました。夏場にしては気持ちが乗っていて、道中はイメージ通りでしたが、4コーナーで振り向いたら、(昨年の勝ち馬が迫ってきて)丸野さんがいたので、ちょっとドキッとしました。馬が頑張ってくれて、勝つなあとは思った。(勝負強い馬ですが)相手なりでヒヤッとすることもあります。次走は大井の東京記念(昨年2着)に向かう予定です。

 錦見調教師 (中央馬相手の佐賀・サマーチャンピオンも登録していたが)補欠扱いになっちゃって取り消した。ここなら九分九厘勝てるから。でもこの馬で何とかダートグレード競走を勝たないとね。

カツゲキキトキトの優勝を喜ぶ関係者

 くろゆり賞Vで、地方重賞は15勝目となったカツゲキキトキト。名古屋で東海ダービーなど11勝、笠松でオグリキャップ記念、新緑賞も制覇。園田の六甲盃も勝っている。素晴らしい成績ではあるが、地方馬同士限定の強さでもある。

 中央馬との戦いになるダートグレード競走では、白山大賞典(金沢)2着が最高で、名古屋グランプリ、名古屋大賞典、かきつばた記念(名古屋)では3着どまり。頂点にはあと一歩届いていない。今夏はJRAダート最強馬ゴールドドリームが勝ったGⅠ・帝王賞(大井)にも挑戦。10番人気だったが、何とか7着に踏ん張ってくれた。

 もともと笠松育ち(柴田高志厩舎)で、2歳新馬戦を大原浩司騎手で勝利したカツゲキキトキト。馬体回復のため放牧に出され、3戦目からは名古屋に移籍。3歳になって錦見厩舎で潜在能力を開花させた。充実の5歳を迎えたが、馬主の野々垣正義さんは、今年7月に亡くなられた。

オグリキャップ記念Vのカツゲキキトキトと馬主の野々垣正義さん(左)=2017年4月

 昨春のオグリキャップ記念優勝では、野々垣さんの喜びの声を聞くことがあった。かつては岐阜県の馬主会にも所属され、「カツゲキキトキトのファンが多い笠松や全国の競馬場で雄姿を見てもらいたい」と愛馬の活躍に目を細めておられた。笠松でデビューした「カツゲキ」という馬を、所有馬の冠名にしており、有力馬が次々と重賞を制覇した。今年の北海優駿(ダービー)を勝ったカツゲキジャパン、重賞連勝中で通算31勝のカツゲキライデンらが北海道で活躍している。

 中長距離の古馬ダート戦線は地方、中央ともに層は厚いが、カツゲキキトキトはまだまだ若く、成長が見込めるはず。今後はギアをもう1段上げて、思い切ったレースプランで、中央馬に挑んでほしい。

 「名馬の里」である笠松は、もちろん全国の競走馬にとってのパワースポットでもある。今年、ダートグレードを勝った地方馬は園田の2頭(元JRAオープン馬)のみだが、ともに笠松での好走後にビッグタイトルを獲得している。

笠松・サマーカップをエイシンバランサーで勝ち、ファンに花束をプレゼントする下原理騎手

 7月の笠松・サマーカップを圧勝したエイシンバランサーは、佐賀・サマーチャンピオン(GⅢ)では5番人気だったが、中央馬を圧倒して優勝をさらった。昨秋の笠松グランプリ2着のエイシンヴァラーは、今春の高知・黒船賞(GⅢ)を最低人気(単勝2万3430円)で制覇する大金星。いずれも昨年273勝を挙げて全国リーディングに輝いた下原理騎手の好騎乗が光った。

 カツゲキキトキトもこの流れに乗って、この秋に挑むダートグレード戦線でのVが期待される。東京記念の後は、昨年のように10月の白山大賞典に向かうことになれば、大きなチャンスも巡ってきそうだ。馬主名は野々垣さんのままでもあり、亡きオーナーの悲願だった「ダートグレード制覇」をぜひ達成してほしいものだ。