岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 「自閉症スペクトラム障害(症):Autism Spectrum Disorder (ASD)」には、①社会的コミュニケーションと対人関係②行動、興味、活動におけるこだわりの二つの特徴があります。以前には、「自閉症」や「アスペルガー障害(症候群)=高次機能自閉症」と言われていたものも含まれます。原因は脳の機能的な問題で、決して親の育て方のせいではありません。

 社会的コミュニケーションと対人関係の特徴は、まずコミュニケーションの手段を理解し、それを正しく使用できないことです。話し相手の表情やしぐさ、アイコンタクトといった非言語的コミュニケーションから感情を読み取ることが苦手です。患児自身もこのような非言語的コミュニケーションを用いない、また言葉を額面通りに受け取ってしまい、抽象的な言葉や「それ」「あれ」などの代名詞、冗談や慣用句が理解しづらいです。

 そのため、通常の会話のやり取りが苦手なだけでなく、対人的に異常な近づき方をしてしまうなど、興味や情動、感情を他人と共有しづらく、学校での集団活動など社会的相互反応に応じることが困難です。このような社会的コミュニケーションの障害により、小児期のさまざまな社会的状況に適応した行動を取ることができません。具体的には、友達とごっこ遊びができない、友達をつくることが難しい、そもそも仲間に対する関心・愛着がないなどで、その結果、その時期に適切な対人関係を発展・維持したり、それを理解したりすることができないといった問題が生じます。

 行動、興味、活動におけるこだわりについては、大きく三つに分けられます。一つ目は、体の動作や会話、物の使用などに対し、同じ動きや手順・習慣・儀式に極端にこだわることです。具体的には、上半身を前後に揺らしたり、くるくると回ったりするような単調な動きを繰り返したり(常同運動)、オウム返し、おもちゃを一列に並べる、物をたたく、独特な言い回しなどです。

 また、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりといった手順へのこだわりもあり、小さな変化に対して極度の苦痛を感じたり、思考が柔軟性に欠けるため、無理にこれらの行動を止めさせようとすると、パニックになります。

 第2に、関心や興味を示す範囲が極端に狭く、それ以外の物には目も向けないことです。気に入った服を汚れても着続けるなどの対象への強い愛着、または没頭。鉄道模型を何百台も集めるなどの過度に限局、固執した興味があります。

 最後に聴覚、嗅覚、視覚など特定の感覚が過度に敏感または鈍感なことです。そのため患児は、触られることや特定の音に対して過敏に反応したり、逆に痛みや体温に無関心なように見えたりします。また、対象を過度に嗅いだり、触れる。光または動きを見ることに熱中してしまう、あるいは極端な偏食を示すこともあります。

 次回は、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」についてお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)