強烈な末脚を発揮し、桜花賞を制覇したアーモンドアイ(競馬ブック提供)

 15頭をごぼう抜き、大外一気の強烈な末脚で桜花賞を制覇したアーモンドアイ。次走はオークスか、あるいは日本ダービーか。異次元の強さで、競馬関係者やファンの注目度もヒートアップ。末恐ろしい3歳牝馬が出現したものだ。

 アーモンドアイを管理する国枝栄調教師は岐阜県出身(本巣郡北方町)の名伯楽。桜花賞制覇は、牝馬クラシック3冠に輝いたアパパネ以来8年ぶり。桜花賞馬は、オークスから秋華賞へと牝馬3冠を目指すのが王道ではあるが、「桜花賞史上最強」とまでいわれる勝ちっぷりから、陣営は「できることなら」と、日本ダービーへの挑戦も視野に入ってきた。

 国枝調教師は「ダービー調教師」への夢を追い続けてきたが、牡馬クラシックでの勝利はまだない。日本ダービーは牝馬にも開放されており、アーモンドアイが参戦すれば負担重量2キロ減の恩恵がある。陣営はアパパネで牝馬3冠は達成済みでもあり、牧場やオーナーサイドの理解を得て、ここは思い切って日本ダービーに挑戦してもらいたい。

日本ダービー制覇への夢を語る国枝栄調教師

 国枝調教師は、皐月賞前日(14日)が63歳の誕生日。これまでGⅠではアパパネ、マツリダゴッホ、ピンクカメオなどで12勝を挙げ、通算勝利は800勝を超えて現役3位。高校時代まで岐阜で過ごした国枝調教師とは同郷で、小中学校も同じという縁もあり、その活躍ぶりを注目してきた。ゴール前で観戦した秋華賞でのアパパネ3冠達成では、単勝だけしか当たらなかったが、貴重な記念馬券となった。5年余り前、岐阜の実家に帰省された際のインタビューでは、調教師としての夢を次のように語っていた。 

 「日本ダービーを取りたいよね、ダービー調教師として名前が残るからね。生産者もダービー馬の夢を追い掛けていて、調教師として『あいつに預けよう』と評価される成績をキープしていきたい。アパパネへの最初の種付けはディープインパクトで、夢が続きます。まずはダービーを勝ってこの世界でもう10年頑張りたいですねえ」

 アパパネとディープインパクトの子であるモクレレは4歳になったが、残念ながらクラシックロードには進めなかった。国枝調教師はこれまでダービーには4度挑戦したが、タンタアレグリアの7着(15年)が最高である。

アーモンドアイで桜花賞を勝ち、ガッツポーズのルメール騎手(競馬ブック提供)

 桜花賞を勝ったアーモンドアイについて、ルメール騎手は「すごい脚を使ってくれて気持ち良かった。飛びが大きくて瞬発力は『アンビリーバブル』だった。長い距離もいいので、トリプルクラウン(3冠)を狙える」と素質の高さを絶賛。ラスト3ハロン(600メートル)33秒2は他馬よりも1秒以上速く、アパパネを上回る桜花賞レコード(1分33秒1)で駆け抜けた。直線での切れ味は、桜花賞を勝ったブエナビスタやハープスターを上回る破壊力で、ジェンティルドンナ以来の3冠候補にも躍り出た。

 父は香港スプリントなどGⅠ5勝のロードカナロア(昨年の新種牡馬チャンピオン)で、母はエリザベス女王杯優勝のフサイチパンドラという良血。まだGⅠを1勝しただけで成長力は未知数だが、ルメール騎手は国枝調教師に「ダービーでもいいんじゃない」とも語ったという。アーモンドアイがダービーに参戦するためには、200万円の追加登録料を払う必要があり、国枝調教師は「自分で決められるなら、すぐに払っちゃうけどなあ」と冗談交じりに話したという。次走については、生産牧場のノーザンファームやシルクレーシング(一口馬主クラブ)のオーナーサイドで最終的には決めることになるだろうが、アーモンドアイを桜花賞馬に導いた国枝調教師の意向は大きいはず。なかなか巡ってこない大きなチャンスでもあり、馬主たちとダービー挑戦の夢を共有できるといい。

 桜花賞からダービー直行という、牡馬・牝馬の枠組みを超えた変則クラシック。同じローテーションで牝馬として64年ぶりに日本ダービー(07年)を勝ったウオッカ(四位洋文騎手)は、桜花賞ではダイワスカーレット(安藤勝己騎手)に敗れて2着だったが、ダービーを圧勝し「世代最強馬」の称号を手に入れ、引退までにGⅠを7勝した。

国枝調教師と、牝馬3冠などGⅠで5勝を飾ったアパパネ(国枝調教師提供)

 「ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になることより難しい」とか、「ダービーは最も運のある馬が勝つ」といった言葉があるように、確かにダービージョッキー、調教師への道は厳しい。現役最多の1400勝近い勝利数を挙げている藤沢和雄調教師でさえ、レイデオロで昨年ようやく悲願を達成。65歳で迎えた19度目のダービー挑戦だった。安藤勝己騎手はキングカメハメハで早々と制覇したが、蛯名正義、福永祐一らベテラン騎手はまだその称号を手にしていない。地方競馬では、通算7000勝を突破した大井の的場文男騎手も東京ダービーを勝っていない。

 牡馬クラシック第1弾は皐月賞(15日・中山)。波に乗ってきた国枝厩舎では、桜花賞制覇に続いて2週連続のクラシック制覇の可能性がある。3連勝中のオウケンムーン(北村宏司騎手)が共同通信杯Vからの直行で、厩舎としても牡馬クラシック初制覇に挑む。共同通信杯1着馬は、2012年から1年置きでゴールドシップ、イスラボニータ、ディーマジェスティの3頭が皐月賞を制覇。順番通りなら今年はオウケンムーンの年となるが...。

 皐月賞の結果次第だが、ダービーには国枝厩舎からは2頭出しの可能性もあり、調教ではオウケンムーンを圧倒する動きを見せているというアーモンドアイ。もしダービーを勝つことができたら、さらに海外挑戦へと夢は膨らむ。早くもファンの間では、斤量面から3歳牝馬に有利な凱旋門賞へのアーモンドアイの挑戦を期待する声もある。

 開業30年目を迎えた国枝調教師。残されたチャンスを生かして、悲願である「ダービー調教師」の夢をぜひ達成してほしい。アーモンドアイには「世界のロードカナロア」と呼ばれた父のように、強烈な末脚を武器に、世界へと大きく羽ばたいてほしい。