4センチ以下の早期腎がんに対する腎部分切除術

泌尿器科医 三輪好生氏

 腎臓のある場所をご存じでしょうか。肋骨(ろっこつ)の下の腰辺りに左右、2個あります。腎臓の主な働きは、血液をろ過して尿をつくることですが、それ以外にも血圧を調節するホルモンや造血ホルモンの分泌、ビタミンDの活性化なども行う重要な臓器です。

 慢性腎臓病(CKD)という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。CKDは心血管病(CVD)を合併しやすく、将来的に腎不全に至るリスクがあります。腎不全とは直接関係はありませんが、この腎臓の細胞はがん化することがあり、腎がん(腎細胞がん)と呼ばれています。

 腎がんの治療といえば15年ほど前までは早期に発見して手術で腎臓を摘出する以外に長期生存が期待できる方法はありませんでした。しかし腎がんは早期には自覚症状を認めません。血尿や腰痛、腹部のしこりなどの自覚症状はがんが進行した状態になってから出現します。早期で見つかる腎がんの多くは人間ドックやかかりつけのクリニックなどで受けた腹部超音波検査や別の目的で撮影したCTで偶然に見つかります。

 治療は、がんが腎臓の中にとどまっている時には手術で根治を目指します。以前はがんの大きさに関係なく、がんのある側の腎臓を全て摘除する手術が行われてきました。最近ではがんの場所にもよりますが、一般的にがんのサイズが小さい(4センチ以下)時にはがんだけ切り取って腎臓を残す腎部分切除術が積極的に行われます。腎がんに対する手術は腹腔(ふくくう)鏡で行われることがほとんどですが、現在ではダビンチなどの手術支援ロボットを使って行う手術も保険診療で受けられるようになっています。

 手術で取り除くことができないほど進行したがんや、転移を認めるがんに対しては薬物療法が選択されます。近年になって多くの新規治療薬が登場し、以前だと見つかった時には手遅れだったような進行がんに対してもある程度の効果が期待できるようになりました。

 代表的な薬剤は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬です。分子標的薬は、病気の原因に関わる特定の分子だけを選択的に攻撃するのが特徴です。正常な細胞へのダメージが少ないことから体への負担が軽いことが期待されましたが、重症な皮膚症状や肺炎などの合併症が見られることがあり、従来の抗がん剤とは異なった副作用に注意が必要です。

 免疫チェックポイント阻害薬は、さまざまな免疫細胞の働きを抑制する「免疫チェックポイント」を阻害することで、がん細胞に対する免疫を活性化・持続させる薬剤です。従来の抗がん剤とは全く異なる作用機序で効果には大きく個人差がありますが、一部の患者さんでは画像では分からないほどにがんが小さくなることもあります。一方で重篤な副作用のリスクもあるため長期にわたって慎重に経過を見ていく必要があります。

 治療で使用する薬剤はがんの組織型とリスク分類という評価に基づいて、これら2種類の薬剤を個別にまたは併用して投与します。先にも述べましたが多岐にわたる副作用に対し適切な対応が必要であるため、診療科の枠を超えた集約的な治療体制が整った病院での治療が望ましいです。昔と比べ治療の選択肢が飛躍的に増えたことは喜ばしいことですが、腎がんは早期発見が大切なことは今も変わりありません。1年に1回、人間ドックやかかりつけのクリニックで腹部超音波検査を受けましょう。