循環器内科医 上野勝己

 急速に高齢化が進む日本で、今後急増の可能性が指摘されている病気に、心不全があります。80代で増加するため、慢性心不全患者は現在の100万人から、2025年には120万人、35年には130万人に達すると予測されています。血圧の上昇やインフルエンザ、肺炎などの呼吸器感染症をきっかけに悪化するため、冬場に集中し、救急搬送が必要な場合が多いのです。再発を繰り返すのも特徴で、将来心不全患者であふれかえり、救急体制を直撃する可能性も指摘されており"心不全パンデミック"と恐れられています。

 心臓は1日に10万回拍動しながら、体中に血液を循環させる勤勉なポンプです。体から戻ってきた血液を肺に送り、肺で酸素をもらった血液を体中に送り返しています。心不全とは、この心臓のポンプ機能が低下した状態をいいます。馬力が低下して十分に血液を送り出せなくなり、体の血流不足が起きます。そのために階段や強い労作での息切れや呼吸困難感、全身倦怠(けんたい)感、手足の冷感が起き、顔色も悪くなってきます。そして体から戻ってきた血液を十分に送り返せなくなり、体にたまるようになります(うっ血)。肺のうっ血で酸素交換がうまくいかないと、血液中の酸素不足が起きます。

 夜中に急に呼吸困難で目がさめ、体を起こして座ると楽になることを起座呼吸といいます。体を起こすと肺のうっ血が軽くなって楽になるのです。心不全で呼吸困難の状態にある人を、無理に仰(あお)向けに寝かせてはいけないのはこのためです。急に心停止を起こすことがあります。また体のうっ血は、手足や顔のむくみになります。

 心不全の症状は少しずつ悪化していくため、年齢や運動不足のせいと済ませたり、無意識に生活制限をかけて心不全の進行に気が付かず、ある日突然重症化し、救急搬送される(急性増悪)ことも珍しくはありません。

 心不全は4段階のステージに分類されます。ステージAは、心不全の原因となる病気(心筋梗塞などの虚血性心疾患や高血圧)はあるが、心機能は正常の段階。ステージBは、心機能は低下を始めているが症状が無い状態(隠れ心不全)。ステージCは、心不全の症状が我慢できなくなり、病院を受診する段階。ステージDは適切な薬物療法を行っても心不全がコントロールできず、入退院を繰り返しながら悪化していく状態です。末期心不全で、65歳未満ならば心臓移植を待ちます。

 ステージCは、通院治療でコントロールする状態ですが、米国のある研究では、ステージCの心不全患者は3年間で8人に1人がステージ4に移行し、1人が死亡していました。同じステージCでも、心機能の低下が著しく、日常の生活にも制限を受けるような症状の強い患者で悪化しやすいようです。急性増悪で入退院を繰り返す患者も増えてきます。

 いかにステージA、Bの段階で心不全を早期に発見し、ステージCに移行させないかが鍵となります。ステージBでは、バイオマーカーであるBNPという採血検査で、簡単に心不全の状態をスクリーニングできます。BNPの値が高ければ(100pg/ml以上)、心エコー検査が勧められます。現在心筋梗塞や高血圧で治療を受けている方は、症状がなくてもかかりつけ医に相談してみましょう。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)