整形外科医 今泉佳宣氏

 皆さんは肩が外れたことがありますか? 恥ずかしながら、私は肩が外れた経験があります。肩が外れるという表現は通常、肩関節の脱臼を意味します。今回は肩関節脱臼のお話です。

 関節とは、骨と骨とが向かい合うところです。数え方によりますが、人間の体には約260個の関節があると言われています。肩関節は主に肩甲骨と上腕骨から成り立ち、さまざまな方向への可動域が非常に大きいことが特徴です。これは上腕骨骨頭と向かい合う、肩甲骨の関節面が上腕骨骨頭を広く覆うような構造でないことによるのですが、その分、上腕骨骨頭が肩甲骨関節面から外れやすくなります。

 どのようなときに、肩関節は脱臼するのでしょうか? 多くはスポーツの最中に起こります。ラグビーやアメリカンフットボール、柔道や相撲といった相手との接触を伴うスポーツ(コンタクトスポーツ)で生じやすいことが分かっています。そしてボールを投げるような動作である、肩関節の外転・外旋・伸展動作で脱臼しやすいことも分かっています。

 肩関節が脱臼した患者さんは痛みで顔をしかめ、腕をだらりと下げ、反対側の手で脱臼した肩を押さえた状態で治療者のところに来ます。ここで治療者と書いたのは、肩関節脱臼の多くがスポーツの現場で生じ、医療機関を受診する前にトレーナーやチームドクターが現場で脱臼を整復(元に戻す)してしまうことが多いからです。

 脱臼を生じた場合は、できるだけ早くに整復する必要があります。脱臼してから時間が経過すると整復がやりにくくなります。整復にはいろいろな方法がありますが、大切なことは脱臼した患者さんの緊張をできるだけ取り除くことです。痛みに伴う恐怖心から脱臼した肩関節周囲の筋肉がひどく緊張していることがあり、その場合は整復が困難になります。現場での整復が難しく医療機関を受診した場合は、緊張をやわらげるような薬を投与して整復することもあります。

 脱臼が整復されると同時に痛みは楽になりますが、すぐに運動を再開してはいけません。可能であれば脱臼後3週間は肩関節を固定したほうが良いとされています。

 しかし、実際には試合が近いなどの理由でほとんど固定をせず、試合に出場してしまう選手もいるようです。そのような状態で運動をすると脱臼を何回も繰り返す、反復性肩関節脱臼という状態になります。これは俗に言う「脱臼癖」のついた状態であり、手術治療が必要となります。

(朝日大学村上記念病院教授)