整形外科医 今泉佳宣

 もうすぐ暑い夏がやってきます。夏になると学校体育では水泳を行いますね。私も小学校から高校まで、夏は体育で水泳をやりました。

 小中学校の体育の水泳において、かつては行われていたもので、現在は行われないものがあります。それは飛び込みによるスタートです。2012年の文部科学省の学習指導要領によると、小中学校における水泳では「水中からのスタート」を指導し、「飛び込みによるスタート」の指導を行わないと規定されています。これはかつて、小中学校の体育現場でプールへの飛び込み事故が起きていたからです。具体的には飛び込みによる首の骨(頸椎(けいつい))の骨折です。

 頸椎の骨折の多くは、脱臼を伴います。頸椎が脱臼すると、中を通る脊髄(頸髄)が圧迫され、頸髄損傷を生じます。頸髄が損傷されると程度によりますが、多くは手足が動かなくなり、回復しない場合は、一生車いすの生活になることを覚悟しなければなりません。

 「水中からのスタート」により、小中学校での飛び込みによる事故は減少しました。しかし高校ではそのような規制はなく、最近でも飛び込みで頸髄損傷を生じた高校生の事例が報告されています。小中学校で飛び込みによるスタートをしたことがなく、高校生になって初めて飛び込みをする生徒に、安全な飛び込みの方法を教えることは、決して容易ではありません。

 もしプールで飛び込みをする場合は、飛び込みをする前に、あらかじめプールに入ってその深さを確認してください。当然のことですが、浅いプールでの飛び込みは大変危険です。そして、十分な深さがあるとして飛び込みをする場合、飛び込み場所よりできるだけ遠くに飛び出し、着水するときは水面に対し、なるべく浅い角度で入水することが大切です。事故の事例では飛び込むときに遠くに飛ばず、しかも水面に対して垂直に近い角度で入水していることが報告されています。

 安全な飛び込みの方法を知ったとしても、自信がなければ決して飛び込みをしないでください。一番良くないのは、仲間同士でふざけて飛び込みをすることです。これまで頸髄損傷を生じた患者さんを多く診てきました。iPS細胞への期待が高まっているとはいえ、今のところ損傷した脊髄を再生することはできていません。脊髄損傷は治療よりも予防が大切です。

(朝日大学村上記念病院教授)