脳神経外科医 奥村歩氏

 認知症とは、脳の働きが全体的に低下して、生活に支障が出る状態のことです。単独の病気のことではありません。認知症の原因となる病気は100種類以上あります。その中で、アルツハイマー病は約50%を占めます。

 「認知症といえばアルツハイマー」と思われているほど代表的なアルツハイマー病は、アミロイドβと呼ばれる老廃物(ごみ)が脳にたまることが認知症の引き金になります=図参照=。

 アミロイドβは皆さん自身の神経細胞の残骸です。ウイルスや病原菌のように外から侵入するエイリアンではありません。加齢に伴って誰の脳にも蓄積する老廃物なのです。アルツハイマー病では、特徴的な中核症状(根本的な症状)が現れます。

 ①記憶の支障 いわゆる「もの忘れ」が顕著になります。同じことを何度も言ったり、聞き直したり。「先週、旅行に行ったことをまるで覚えていない」などのエピソードがあります。

 ②視空間認知の支障 自身と周りとの位置関係が不明瞭になります。通常、街中の雑踏でも人にぶつからずに歩くことができるのは視空間認知機能のおかげ。この機能が低下すると、足腰が弱ったわけでもないのに「歩行のスピードが遅い、道に迷う、車の運転が苦手になる」といったことが起きます。

 ③遂行実行機能の支障 遂行実行機能とは、手順通りに動作を実行する脳の働き。これに支障が出ると「料理や仕事がうまくできない」といったことに。重度になると「風呂に入る、着替えをする」といった日常生活動作も不自由になる場合があります。

 周りの方の適切な対応の第一歩は、アルツハイマー病の中核症状を知り、認知症の人の安全な生活を確保するために配慮すること。注意すべき四つのポイントを、私は「ククカカ」と名付けています。

 【ク】 薬の管理。風邪薬や血圧の薬、睡眠薬など、常備薬の飲み間違えに注意を。飲み忘れだけでなく、特に飲み過ぎに気を付けてください。

 【ク】 車の事故に注意。交通事故の被害者にも、加害者にもなりやすいからです。

 【カ】 火事。火の用心。これから寒くなります。火事に注意しましょう。

 【カ】 カネ。お金の管理。散財や詐欺にも要注意です。

 アルツハイマー病には、有効な薬が4種類あります。これらの薬は用量や組み合わせの「さじ加減」によって軽症から重症まで対応できます。最も有効なのは早期診断・早期加療で、認知症の進行を抑制することです。しかし、困った事態になっても手遅れではありません。「暴言・暴力」「意欲の低下」「不安・焦燥」「錯乱・妄想」などの行動・心理の症状も薬で緩和することができます。そのため認知症の薬は貼り薬・水薬・ゼリーなど、患者さんが服用しやすいように工夫がなされています。

 中核症状や行動・心理の症状で悩んだり、困ったりした場合はためらわず、専門医に相談してください。

(羽島郡岐南町下印食、おくむらメモリークリニック院長)